よくある安価な居酒屋で、こだわりのない品々をつまみながらレモンサワーで流す。最近の話題やら昔話やらで既に盛り上がっている彼らには、それで充分だった。
「にしても、マッチングアプリやってるとはね」
敢えて出していなかった話題に先に触れたのは、時重の方だった。
「それはこっちのセリフだって!トキシゲだって写真じゃ全然わかんなかったわや」
「トモハルは全部正直に書きすぎ」
顔が分からない写真を時重は使っていたが、智春は顔が分かる上に本名で登録していた。
「こういうの初めてやっから、わかんねんだすけ、教えてやー」
酔いか、あるいは目の前に同郷の人間がいるからか、懐かしい訛りが出る。
「なんでこのアプリやってたの」
「え・・・っと、飲み友達欲しくてさ!プロフにも書いてあんだれ」
嘘ではないが、言葉に詰まったせいか言い訳のようになってしまった。
「ふーん、それだけ?智春って昔から友達多いじゃん」
「それは、その、」
大きな、潤んだ瞳がじっと見つめてきて、久しい目付きに少したじろぐ。
「あわよくばとか、ないわけないでしょ」
「いや、なんか、ゼミの友達に登録させられて、全然そういうつもりで入れたわけじゃないんだけど」
「そう」
智春の言葉に短く返事をして、時重はいつの間にかハイボールを追加している。彼は酒に強いらしい。
実際に友達が勝手に登録したのだが、智春は何やら見透かされたような、小っ恥ずかしい気持ちになって少し残っていたレモンサワーを一気に飲んだ。
その後も話題は尽きることなく、といっても、時重は頷いていることが多かったような気もするが、酒量も時間も気がつけばかなり進んでいた。