今日は普段よりもかなりハイペースに智春は飲んでいた。目の前にいる幼馴染のペースにつられているのだろう。回らない呂律と思考回路で、今度は智春が時重に訊いてくる。
「トキシゲはさあ、なんれ、俺ってわかってて、声かけててきたんらよ」
どうしても確認しておきたかった。先にメッセージを送ってきたのは時重の方だったのだ。
「ずっと、興味あったんだよね」
その言葉にピンとこず、智春は首をかしげる。
他の席との間には仕切りがあるのをいいことに、時重は反対側の席にいる智春の隣に座り直して、するりと白い手を伸ばす。指先の行方に気づいた智春が、反射的に腰を引いた。
「へ・・・」
妙な汗をかきながら、間抜けな声を出した後、何、と訴える。
「あんなアプリやってるんだから、わかるよね?」
また、じとりと見つめられる。智春は平静を装っているようだが、まさかという気持ちで、耳まで赤いのが橙の照明でもわかる程になっていた。あまり察しが良い方ではなかったが、時重の言わんとすることはさすがに理解できた。
「失礼しまーす!」
「そろそろラストオーダーですが、いかがなさいますか?」
快活な声が、同じ側に座っている二人をなんの訝しむ様子もなく訊く。
「あー、じゃあレモンサワーお願いしまーす。智春は?」
「じゃあ同じの・・・」
酩酊初期にもかかわらず、追加をしたのは、正常な思考はアルコールと共に蒸発してしまっていたからだろう。
会計を時重が済ませ、智春はテーブルに突っ伏していた。
「ほら、行くよ」
少し頬が紅潮した程度の時重が言う。
「ん〜・・・」
「置いてくよ」
そう言うと、肩を貸してと、どうにか立ち上がりよろよろと二人で店を後にした。
六月の夜はやはり風が冷たい。
智春は今どこに向かっているのか見当がつかなかったが、駅にでも向かっているのだろう。時重に肩を組んで体を預けていればどうにかなるものだと、夜風に吹かれて少し覚めた頭で考えていた。
酔いは冷めず、先刻の時重の行動のことは、既に忘れていた。
しばらく歩いて、寂れたようだが色とりどりのあかりか目立つ通りに入り、ひとつの建物に入った。なかの一室にたどり着くと、智春はベッドらしきものにほうり投げられた。
「待ってて」
そういうと時重はどこかへ姿を消した。
「ん」
とだけ返事をして智春は眠ってしまった。