世界五分前仮説「この世界は5分前に始まったのかもしれない」
柔らかな日差しの注ぐ、暖かな休日の昼下がり。兄がぽつりとそう口にしたのをよく覚えている。
休日出勤の多い兄、ユリウスが珍しく家にいる日だった。昼食はユリウスの好きなトマトソースパスタ。部屋にはまだかすかにトマトとガーリックの匂いが残っていて、口の中も一度水を流し込みはしたものの食前と同様の状態とは程遠い。
喜んでもらえたのは良かったけどこればかりはなあ、そう思いながら飴玉を口に放るとミントの清涼感が口の中に広がる。換気扇の駆動音は小さく唸っていた。
洗剤とスポンジを手に、空き皿を洗っているルドガーに対しユリウスはひとりごとのように呟いた。あるいは膝に載せた家族、愛猫ルルに話しかけているような。ユリウスのその不思議な言葉に、手を止めずに尋ねる。
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