名残り目が覚めると目の前に誰かの頭があり一瞬驚いた。
しかしすぐに昨夜のことを思い出して腕の中で眠っている人物の身体を抱きしめる。
(そうだ、昨日やっとアーノルドと最後まで愛し合えたんだ)
アーノルドの存在に心惹かれて告白をし、交際まで漕ぎつけるのに半年、そして体を繋げるまで三ヶ月掛かった。
抱きしめ合い、キスをして、互いの温もりを分かち合い熱を散らすことは出来ても一般的な性行為となれば、受け入れる側の負担を考えると躊躇いが生じるのは当然で、私たちの場合それはアーノルドの立ち位置になり、彼に肉体的負担を掛けるくらいなら別に無理に体を繋げることはせず、今のままでもいいと言った私にアーノルドは切なそうに笑いながら、『愛する人と一つになりたい、この体でもアルを受け止めることが出来ると証明したい』と言って自分の意思で私を受け入れてくれた。
それがどんなに勇気のいることだったかを想像すればするほど私はただ嬉しくて、そしてやっと彼と繋がれることに感謝した。そうして時間を掛けてアーノルドの心と体の準備を整えて私たちは一つになり、それは今までに感じたことのない快楽と幸福感を私に与えてくれて最後は理性を失い本能のままにアーノルドの身体を求め尽くした。
「ん……」
腕の中でアーノルドが身動ぎしてゆっくりと目を開け、少し潤んだ緑瞳と目が合った。
「おはようございますアーノルド。体の調子はどうですか?」
背中に回していた手で彼の背中を優しく撫でながら問い掛けるが、アーノルドはまだ寝ぼけているのか数回瞬きをしたあと、私の胸に頭を擦り付けるように抱き着いてきた。
「アーノルド?」
「……夢じゃなかったんだな」
「え?」
「……アルに愛されたのも、こうして朝を迎えるのも夢じゃないんだな」
「アーノルド……」
「嬉しいよ、アル。ありがとう……俺を愛してくれて」
そう言って顔を上げたアーノルドが私の唇にキスをしてきて、私は私こそがこの現状が夢ではないことに初めて神に感謝の言葉を捧げたい気分になった。
けれど神への感謝よりもまずはアーノルドからのキスに応える方が大事で、私は彼の後頭部に手を回し更に深く口付けた。
「ん……っ」
「ん……」
何度も角度を変えてはキスを繰り返しながら、体の奥に昨夜の熱が再び灯るのを感じ思わずアーノルドの体を組み敷くように覆い被さる。
「……アル」
唇を離し細い糸が途切れるとアーノルドの蕩けた表情で私の名を口にした。それだけで私はそのまま彼の体を暴きたい衝動に駆られるが、流石に昨日の今日だとわずかに残った理性を総動員して自分の中の欲望を抑え込む。
「すみません、あなたの負担も考えず……まずはシャワーを。朝食は私が食堂から持ってきますが、食べられそうですか?」
労うように彼の髪を梳きながら訊ねるとアーノルドは少し戸惑った顔をした。
「………しないのか?」
「え?」
「いや、その……俺は全然平気だから、むしろしたいんだけど……」
「ーーーッそれは……嬉しいですが、あなたに無理をさせるのは私の本意ではありません。いくら今日は休息日だとしても初めての行為があなたの体にどれほど負担を掛けているかわからない以上、このまま昨日の続きを……というのはあまり良くはないはずです」
「けど……正直このままお預けくらう方が辛いって言うか……アルだってそうだろ?」
そう言ってアーノルドの手が私の昂り始めていたモノに触れた。
「……ッ!?それは……その……本当に良いんですか?確かに、正直に言えば私もこのまま終わるのは辛いです。ですがあなたの体を考えれば……」
「俺なら平気だって。だから……な、アル」
そう言いながら私の首に腕を回したアーノルドがキスを強請るように目を閉じるので、私は彼の唇に吸い寄せられるように自身の唇を合わせた。
そしてそのまま私たちは一度では済まずにお互い満足するまで愛し合い続けた。
その結果、アーノルドの体には私が愛した痕跡が、私にはアーノルドが付けた爪痕が背中に残り、シャワーの際に感じる僅かな痛みがしばらくの間、互いを求め合った名残となった。