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    えむえむ

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    えむえむ

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    夏のバス停、両片思い沖永

    バスが来るまで「あった!ここっすね!」
    リュックサックを背負った永井は、木製の屋根があるバス停に駆け寄った。
    田畑の中にぽつんとある、背の高い標識と屋根は目立って分かりやすかった。
    年季の入ったバス停の時刻表を眺める。事前に調べたものと違いはなさそうだ。
    「あと十五分で来ますね」
    「了解。間に合ってよかった」
    空いていた、屋根と同じく木製の椅子に、先輩でもバディでもある彼……沖田が座ったから、永井も左隣に腰かけた。
    「これ逃したらあとは夜だもんな」
    「一日に四本しかないっすもんね」
    すかすかに空いた時刻表は永井の地元を思い出させる。移動手段としては車がメインだからバスにはほとんど乗らないが、地元ではもうちょっと本数はあったように思う。

    今年の夏季休暇は、もし暇ならと沖田から誘われたハイキングで始まった。
    普段の生活圏内とは離れた土地へ電車で向かい、涼しい山中で渓流沿いのゆるいハイキングコースを散策した。
    二人で自然をめいっぱい満喫した後、ただ帰るのでは面白くないと、行きとは違う道を通ることにした。
    あちこちに寄りながら地図と携帯を頼りに最寄り駅へ行くバスを探した結果、ここにたどり着いたのだった。

    山のふもとにあるこの場所は、雲がまばらな青空の下に見渡す限り田畑が広がっている。
    人の姿は見えない代わり、蝉の声が騒がしい。
    青々とした稲が定期的に風に揺れるも、思ったほど涼しくはなくて、永井は手で首元を仰いだ。
    「屯地よりはマシだけど暑いなあ」
    隣の沖田を見ると帽子を脱ぎ、それを永井のようにうちわ代わりにしている。
    「山の中はあんな涼しかったのに嘘みたいっす」
    アスファルトで舗装されていない道路と屋根があることで多少はマシだが、とにかく日差しがきつく気温が高い。
    「こんな日に付き合ってくれてありがとうな」
    「全然、誘ってくれて楽しいっす。美女じゃなくてすみません」
    「美女?」
    重くなりすぎないように自虐を入れただけだったのに、沖田は目を丸くして永井を見ている。しまった、唐突すぎて失敗した。
    「や、その、こういうの綺麗な女の子と一緒なら沖田さんもやっぱ、嬉しいじゃないすか、って思って」
    しどろもどろで説明しながら耳まで熱くなる。赤い顔を見られないよう足元に目を向けた。
    「心外だな。俺は永井だから誘ったんだけどなあ」
    「えっ」
    咄嗟に顔を上げれば薄く笑う沖田と目が合った。
    思わぬ言葉と真正面から見た切れ長の瞳。心臓がとんでもない速さで跳ねた。
    『永井だから誘った』なんてめちゃくちゃに嬉しい。やばい。でも嬉しいからこそ、舞い上がらないように気持ちを落ち着けなきゃいけない。
    沖田はいつも課業で一緒のバディだから、後輩だからって意味で言ってくれたに決まっていた。
    そこに特別な……永井が抱いているような想いは一ミリもないのだから。
    「……そ、っすか?ありがとうございます!」
    胸は苦しいけどなるべく普段通り返せたはずだ。頭を掻き、動揺を悟られないよう空を眺める。

    それきり会話は終わって、聞こえるのは蝉の声だけになった。
    沖田とは常に話しているわけじゃない。こうやって沈黙が落ちることもよくある。
    大抵心地いい雰囲気なので永井にとって苦にはならないけど、今は直前の会話のこともあり、それとなく沖田の様子をうかがう。
    沖田はじっと前を向いていた。この自然を楽しんでいるのか、もしくはハイキングの疲れを癒しているのか。どちらにしろ永井を気にしている素振りはない。
    その、整った横顔に汗が一筋流れた。
    かっこいいな、あらためて思ったら心臓が大きな音を立て始めた。聞こえやしないかと不安で、無造作に椅子に置いていた右手を握りしめる。
    ……ダメだ。やっぱ、好き。
    喉の奥からせり上がってくる想いを唇から吐き出すのをこらえたら、頭の中が好きという感情で埋め尽くされた。
    沖田の浅黒く焼けた肌にも、軽く整えられた眉にも、よく細まる目にも、柔らかく名を呼んでくれる度動く大きな喉仏にも、すぐに頭を撫でてくれる大きな手のひらにも、課業中の凛とした厳しさとそうじゃないときの穏やかさにも全部惹かれていて、全部が好きでしかたがなかった。
    自覚したときから膨らみ続ける想いを、ぶちまけたくなるのは何度めだろうか。
    でもおもいのままに好きですと素直に伝えられるほど、もう子供じゃない。
    彼がこんな風によくしてくれるのはただのバディだからで、もし伝えてしまえばきっと休日に誘われもしなくなる。課業の合間の会話だってなくなるだろう。
    かといって想いをこのまま押し込めてなかったことにしておけるほど、大人にはなりきれていなかった。
    コップの水はもう縁ぎりぎりで、いつかは溢れてしまう。
    そのいつかが来たときにどうすればいいのか、永井は分からなかった。

    ……あと何分だろ。
    いつまでも沖田を見ていたい気持ちを振り切り、視線を腕時計にうつそうとしたとき、椅子の上の右手に体温が触れた。
    沖田の手だった。
    声も出せなかった。
    見なくても感触で分かる。沖田の手が永井の右手に重ねられている。
    よくあることだ。多分。初めてだけど。きっとバディならよくあること。
    必死で理由を見つけて冷静になろうとしたけど、汗ばんだ熱い体温を直に感じて心臓が爆発しそうだ。
    ぎゅう、そのままきつく握られた。まるで離さないと言わんばかりに。
    疑問や戸惑いより先に、幸福感に胸がじんとして泣きたくなった。
    理由なんてどうでもいい。ずっとこのままがいい。離さないでほしい。
    体の奥に渦巻く言葉は到底発せず俯いていれば、
    「永井」
    手はそのままに優しく呼ばれた。
    返事をしようとしたのに上手く声が出ない。代わりに、赤い顔だろうことも忘れて頭をもたげ、沖田を見た。
    途端、沖田の顔が近付いた。鼻先が触れそうな至近距離で見る綺麗な顔に見とれていると、今度は唇になにかが触れて離れた。
    「……へ?」
    頭がついていかない。
    触れたものの柔らかさと熱さに数秒遅れてまさか、と思うものの、なにかの間違いで、これは夢だと言い聞かせる。
    けれどすぐに二度同じように唇を塞がれ、呆然と固まる。微かなタバコの味がする。
    背筋がざわめき脈はもうむちゃくちゃに打っている。
    状況が飲み込めない永井を知ってか知らずか、沖田は三度めのキスをして舌で永井の唇を舐めた。
    体に電流が走ったようだった。身じろぎ一つできない中、顎を持ち上げられたと思ったら、即座に唇の隙間から舌が入ってくる。
    どうしていいか分からない永井の舌は絡めとられて吸われた。心地良さに身震いした。
    上手く息ができず苦しいのに頭が甘く痺れる。
    現実感はまるでないのに気持ちよさだけは生々しかった。肩の力が抜けた。勝手に瞼が閉じる。
    動く舌に口内を刺激される度、自然と声が漏れてしまう。全身の熱が増していく。
    「……んっ」
    恥ずかしいと思う余裕もない。歯列をなぞられ頬の内側を舐められれば、姿勢を保っていられず体が前へと傾いた。
    沖田は支えるように肩を抱き体を引き寄せ、キスを続ける。
    キスの快感と汗に濡れた肌の感触とに頭がくらくらして腰が砕けそうだった。
    唾液が口の端から溢れ、いよいよ苦しさが増して顔を顰めたとき、唇と体が同時に離れた。
    「あ……」
    ……離れないでほしかったのに。
    肩で呼吸をしながら自分勝手な不満とも切なさとも言えない気持ちが湧く。
    けれどそれも数秒のことだった。
    少し冷静になってくると、今までなにをしていたのかが急に思い起こされ絶句した。
    ……夢?だよな?
    夢じゃないとありえないはずだ。あんな、キス。なんて。
    混乱しきった永井の見開いた目を、沖田は真っ直ぐ見つめた。
    胸がつまる。沖田の瞳は獲物を捕らえたみたいに鋭くて真剣で、今まで見たことがないものだった。ほんの少し前まで穏やかに笑っていたのが、嘘みたいだった。
    「バスが来るまでで、いいから」
    もう少しだけ。そう呟いた沖田の顔が再び近付いた。
    目を瞑る。
    都合のいい考えなことは分かっていても、もしかしたら。バディだから、じゃないかもしれない。
    コップから溢れ出した水はもう止まらない。どうしようもない。
    割り込んできた舌を真似て絡ませて、夢中でキスをした。




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