フェザーンの一夜フェザーンの街は、銀河の交易の中心らしく、昼夜を問わず賑わっていた。ネオンが瞬く通りには、帝国風の装飾を施した店と同盟の簡素な看板が混在し、異文化の交錯がこの中立惑星の独特な空気を生み出していた。そんな雑踏の中、ヤン・ウェンリーはフード付きのコートで顔を隠し、気ままに街を歩いていた。
彼は休暇を利用したお忍び旅行だった。イゼルローン要塞の喧騒から離れ、たまには自分の時間を楽しみたい。そんな思いでフェザーンに立ち寄ったのだ。歴史書を片手に古書店を覗いたり、露店のスパイス料理を試したり。だが、ヤンののんびりした散策は、思わぬトラブルに直面していた。
「ねえ、兄ちゃん、いい服着てるね。ちょっと話さない?」
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