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    ばったもん

    ワヒロと浅桐さんと戸浅が好きです。

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    ばったもん

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    【春の風】
    崖縁に入学した佐海くんのことを浅桐さん達に頼みにくる伊勢崎くん

    #ワヒロ

    「浅桐。客だ」
     もともと口数の多くない相棒が告げたその言葉に、なにやら色々なものが含まれている事を感じて浅桐は作業の手を止めて振り返った。
     見慣れたラボの入り口に、見慣れてはいるがこの場所には珍しい人物を見つけ、器用に片方の眉を上げる。
     浅桐達の赤錆色のブレザーとは対照的な白のブレザーを着た金髪の男が、黙っていれば秀麗な顔立ちにヘラヘラとあまり知性を伺わせない笑顔で浅桐に手を振ってくる。
    「……」
    「……」
     きっかり二秒その姿を見た浅桐は、見なかったことにした。
    「ちょっ! 真大ちゃんっっ! 待って、お願い聞いてっ ほんとに用事なんだってばっ」
     必死に取りすがる伊勢崎敬に座っている椅子をガタガタと揺さぶられ、浅桐は深く深く息をついた。

    「で?」
     明らかに不機嫌そうな浅桐の声に、伊勢崎は叱られた子供の様に肩をすくめたが、懲りた様子は無い。少しもじもじしながら上目遣いに浅桐を見て、視線が合うと照れくさそうに視線を外した。
    「……その、さ。崖縁に来た一年生の良……佐海ってさ」
     伊勢崎から、今年入った崖縁のルーキーの名が出ると、浅桐の『つまらない用事なら蹴り出してやる』というオーラが消え、代わりに彫りの深い顔に少し人の悪い笑みが浮かんだ。
    「ナルホドね。あいつもお前の『義弟』ってやつか」
    「……うん。柊の事はさ、紫暮に頼んだけど……」
     言いながらぐしゃぐしゃと金色の髪を混ぜるのは、恥ずかしいからか、表情を隠したいのか。
    「大方、『言われるまでもない。柊は我がラ・クロワの大事な仲間だ。そして、崇高な理想と理念を受け継いでくれる後輩でもある。この頼城紫暮が守るべき希望だ』とか言ったんじゃねぇか? あのペテン師」
     すらすらと、共通の知人である他校のリーダーを口まねする浅桐に、伊勢崎が子供の様に喜んで手をたたく。
    「すげぇ。真大ちゃん。めっちゃ似てる! ……うん。まぁ、大体そんなこと言ってた」
     そのときの事を思い出しているのだろう。嬉しいのか、安心したのか、寂しいのか、そんな感情が少しずつ混じった笑顔で伊勢崎が頷いた。
    「ふん。うちのルーキーはな。宗一郎が卒業した後の崖縁リーダーの雑務を押し…… リーダーに抜擢する予定なんでね。そう簡単に潰れてもらっちゃ困るんだよ」
     ふてぶてしい浅桐の宣言を頼もしく聞いていた伊勢崎が、ふと首をかしげる。
    「え? 今、雑務を押しつけるって言おうとした?」
    「……言ってねぇ」
     とぼけてそっぽを向く浅桐に、伊勢崎が食い下がる。
    「絶対言ったよね? 宗も聞いただろ?」
     部屋の隅で二人の邪魔をしない様にと静かに小説を読んでいた戸上は、突然話しを振られて瞬きしながら顔を上げた。
    「すまん。敬。聞いてなかった……」
     そう言って柔らかく微笑む友人は、きっと聞こえていたとしてもそうは言わないのだろう。
    「うわっ! 崖縁の結束固っ!」
     伊勢崎が「絶対言った~」っとだだをこねていると、軽快な足音がラボへと近づいてくるのが聞こえてきた。
    「あ、ヤベっ!」
    「ヒッヒッヒ。お帰りはあちらデス」
     浅桐が笑って、その細い指で指し示した窓へ伊勢崎が飛びつく。
    「じゃぁね。真大ちゃん。宗」
     見送る二人のそれぞれの笑顔に、伊勢崎が残した拝むような仕草は、何に対してだったのだろう。

    「チッ~ス!」
     元気にラボの扉を開けたルーキーは、窓から吹き込んでくる暖かな春の風を感じた。

    《了》
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