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    mct_ichi

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    mct_ichi

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    突如思いついたネタの冒頭をポイ。
    笹さに。

     ズン、と全身に重さを感じる。
     どこかが、ドクンドクンと動いているのがわかる。
     表面を小さなものがいくつも撫でていく。

     ――呼ばれた。
     確かに、誰かが自分を呼んだ。

     ぴくっと痙攣した部分を目蓋というのだと、後になって理解した。
     ゆっくりとそれを開ければ、目の前にぼんやりとした人影が見える。
     自分の周囲を小さなものが舞っている。

    「オレは笹貫」

     思い浮かんだ言葉を口にする。視線をおろせば、そこにはすらりと伸びた手足。軽く拳を握ってから、その手でシャカサインを作って感想を述べる。
    「へぇ、これなら竹藪や海に投げ捨てられても自分で戻ってこれちゃうなぁ」
     ――ホントにオレで大丈夫?
     視線を上げれば、目を丸くして口元を押さえている女性と、隣ですんとした顔をして立っている美しい相貌の、少年とも青年とも思える男が見えた。
     ゆるりと視線を女性と合わせて、にんまり微笑む。
    「これは失敗したって放り出したくなったとし・て・もだ」
     ヒュッと女性が息をのみ、隣の男の服を掴む。おや、圧をかけたか。笹貫は思って言葉を続ける。
    「……はは、なんてジョーダ「っっ! 清光!」
    「はいはい落ち着いてー。はい、吸ってー吐いてー、ちゃんと呼吸しようね、主」
     主、ということは、あの女性がここの審神者だということだろう。
     今形作られたばかりだというのに、様々なことを識っているのが不思議だ。それにしても。
     大丈夫だろうか、と笹貫は心配になる。目の前で、突然崩れ落ちた女性は胸を押さえて息も絶え絶えになっている。そんなに自分を顕現させるのに霊力が必要だったのか。そう思っていた笹貫だったが、次の清光の言葉に呆気にとられることになる。
    「あるじー。主の好きなダウナー系お色気お兄さんにヤられたのはわかるんだけど、笹貫驚いてるから。ちゃんと主らしく挨拶してあげて」
     あるじのすきな、だうなーけいおいろけおにいさん。
     全く頭に入ってこない単語に笹貫は戸惑う。
    「でも! でも清光ぅぅ! 絵姿公開された時にアロハな兼さんとかいろいろ言われてたからてっきりパリピなのかと思ったら、なにあれ、ちょっと……香り立つ色香……色気ヤバいってぇ!」
    「主、笹貫が聞いてるから落ち着いて」
    「無理、落ち着いてられない」
    「あ~の、さ? オレのこと忘れてない?」
     笹貫は自分を無視して続けられる会話に首を突っ込むことにする。ついでに、畳にへたり込んでいる主の隣に行ってその顔を覗き込む。
    「ヒッ!」
    「主?」
    「あっ、ハイ!」
    「よろしくね?」
     手を差し出すと、目を白黒させた後で自分の服で掌をごしごし擦ってから握り返してきた。
    「ヨロシクオネガイシマス」
     手を握っていたのは一瞬、すぐに放すと清光の服を掴んで
    「手! 大きい! 声ッヤバい! いいにおいする!」
    「安定の語彙力ゼロで安心した」
     ぽんぽんと背中を叩いて落ち着かせようとしながら、彼は笹貫を見て困ったような笑みを浮かべた。
    「ごめんね、これウチの恒例儀式なんで」
    「あ~、そうなんだ」
    「そうそう。ここまでスゴいの久し振りだけど。――ああ、そうだ」
     にこっと笑った清光は
    「ようこそ、ウチの本丸へ。今日からよろしくね。俺はここの始まりの一振りの加州清光。で、こっちで瀕死になってるのがうちの主」
     無理尊いを繰り返している女性を指して、まあいつものことだから早く慣れてね、と小首を傾げて見せた。

     それから数日、ここの本丸について謎は深まるばかりだ。
     審神者と言葉を交わしたのは初日だけ。どうやら忙しいらしく、話をしに行くことも許されない。ふらりと現れた主の隣にはいつも誰かしらの刀がいて、妙に親しげに接していた。腰を抱くとか、囁きかけるとか、壁際に追い詰める、とか。さすがにそういう場面に遭遇した時には、男女の親しげなところをまともに見るわけにもいかず、邪魔をしないように慌てて身を隠していた。
     しかし気になるのは、場所を選ばずにイチャついている姿だけではなく、その相手が一定でないということだった。
     ――この本丸って、いわゆるハーレムとかそっち系ってことか?
     汚らわしいだとか、そういう感覚はないから特に思うことはない。ここの主は彼女なのだから、彼女が好きなように振舞えば良い。
     そう思いながら廊下を歩いていると、またしても『そういう場面』に出くわした。
    「あるじさーん! ただいま~っ!」
     乱藤四郎が玄関に走りこんできた勢いのままに審神者に飛びついて頬に軽くキスをする。よろめいた審神者が転びかけるが、その前に乱が身体を支えてゆっくりと床に下した。ぺたんこ座りしている審神者の膝に乗り上げる格好で、彼女の首に腕を回して彼はにこにこと愛らしく微笑んでいる。
    「乱ちゃんお帰りぃ。怪我なさそうで良かったよ」
    「んふふ。ボクが負けると思う?」
    「思わない。強い乱ちゃん大好き~っ」
    「ボクも好きだよ。でも、あるじさん」
     すぅっと声の温度を下げた乱は、ついーと審神者の顎を撫でて上を向かせると顔を近付けて囁く。
    「強いだけじゃなくて、ボクも男なんだけど――格好良いのも、好き?」
    「ふあああ! 乱さまっ! 最高ですありがとうございます!!」
    「あははは! あるじさんおもしろ~い」
     廊下の壁にもたれてそれを見ていた笹貫の隣に、少し頭の位置の低い刀が立った。
    「どうしたお前さん。変な顔をして」
    「いや、ちょっと気になってることあるんだけどさ」
    「なんだ? 僕にわかることなら答えてやるぞ」
     一文字則宗は扇を広げて笹貫を見上げる。
    「あのふたりって、デキてんの?」
    「いや?」
    「ん? じゃあ」
     主と距離の近いシーンを見かけたことのある刀の名前を挙げていくが、どの名前に対しても則宗は首を横に振った。
    「でも、あのイチャイチャって」
    「ありゃぁイチャイチャではなく主の活力回復のための作業だな」
     また意味の分からない単語が出てきた。笹貫は真顔になって則宗を見返す。彼はどこまでも真面目に続けるのだ。
    「お前さん、まだ知らんのか?」
    「なにを?」
    「主の第三の仕事だ」
    「……あの、主って現世での会社員と、審神者以外にも仕事してるの?」
     会社のことで愚痴ったりキレ散らかしている姿も見るし、睡眠や食事でも体力が回復しないのか、疲れ切って栄養ドリンクを手に本丸を出ていく姿もこの数日で何度も見た。審神者の仕事も生半可な覚悟ではできないという。それに加えて、もう一つの仕事? どれだけタフなんだ、と驚く笹貫に則宗は鷹揚に頷いた。
    「最近主が疲れ気味に見えるのは、そのせいだな」
    「大丈夫なの、それ」
    「まあ、その仕事をしていなければ死ぬといっているからなぁ。どんなにキツくとも、生き甲斐ではあるんだろうよ」
     それは一体どんな――興味を示した笹貫に、則宗は「まあ、お前さんもそのうち巻き込まれるだろうから、そう焦るんじゃないよ」如何にも楽しそうに笑い声をあげた。

     そしてその機会は、数日後に訪れた。
     廊下をフラフラと歩いている主を見つけた笹貫は、あまりにも覚束ない足取りであるのを気にして駆け寄る。
     ふ、と足を止めた主がその場に崩れ落ちる。慌てて抱き留めて顔色を確かめる。
     今までに見たこともないような土気色。頬はこけ、肌も唇もカサついている。目の下には濃い隈。
    「ね、聞こえる?」
     顔を近付ければ、微かに呼吸しているのがわかって、ひとまず胸をなでおろした。周りを見回しても誰もいない。自室の近くだったこともあり、止む無く部屋に運んで布団に寝かせた。
    「なんでそんな憔悴してるんだ?」
     彼女は眠っているだけのようにも見える。なにか悪いものに憑かれているようではない。そんな気配は感じない。しかし、人間のこんな顔を見せられては、命に危険が及んでいるのではないかと心臓が氷の手で触られたような気分になる。最悪だ。浅い呼吸で眠っている主を見ると、生命力が枯渇しているんのではないかと心配になる。彼女の顔を見ているうちに、廊下で聞いた会話を思い出した。

    『だから、倒れた主に霊力供給するっていうのは定番でしょ?』
    『霊力供給とは、なにをすればいいんだ?』
    『えー、定番はキスとかかな。ハグでも大丈夫って説もあるけど、もっと直接的なのが有名なんじゃない?』

     あれは誰の声だったか思い出せない。だが、今の状況、これはもしかして、彼らが言っていた霊力供給というものを必要としている場面ではないのだろうか。
     ――オレでも良いのか?
     わからない。わからないが、彼女に倒れられては困る。
     ――キス、って、やっぱり口にだよな。
     薄っすらと開かれている唇を見つめる。怒られて嫌われたなら、その時はその時だ。眠っている彼女に覆いかぶさり、そっと唇を重ねる。
     ――なにも考えずにしちゃったけど、霊力ってなんだ?
     どうやれば相手に分け与えられるかもわからないままに、キスしてしまった。呼吸だろうか? ふぅっと息を吹き入れてみるが、彼女は少し苦しそうに眉を顰めた。ならば、と舌を差し込んで審神者の舌と絡める。唾液を彼女の口腔に流し込んで飲ませる。無意識にだろうが、主の喉が動いてそれを飲み込んだのがわかった。
     唇を離して、口元を拭う。様子を観察していると、少しずつ頬に赤みが差してきたように思える。何度かそれを繰り返していると「ん……」主が甘い声を上げて身を捩った。
     覆い被さっていた姿勢を戻して彼女の頬を撫でる。その刺激でうっすらと彼女が目を開けた。
    「……だれ?」
    「オレ、笹貫」
    「――ささぬ……え?!」
     目を大きく開いた主が飛び起き、顔を見せようとしていた笹貫と頭をぶつけて呻く。
    「いったぁあ! って、え? なんで? なんで笹貫?」
    「なんでって、覚えてないの?」
     廊下を歩いていた審神者が突然倒れ、抱き留めた自分が自室に連れてきて寝かせていたのだ、と事実を説明する。あんなに悪かった顔色が、今は赤いといってもいいほどに回復している。良かった、と安心した笹貫に対して、主はなにやらブツブツ呟きだした。
    「なんで私気を失ってたの? そんな場面、定番すぎるのに……! 経験しておけば解像度が上がってよりリアルなシーンが書けるかもしれないのに、もうっ私ってば馬鹿っ!」
    「大丈夫?」
     もしかして錯乱しているのか? 笹貫は主の髪を指で払って顔を見る。
    「っ! なっなんでしょう?!」
    「顔見ただけ」
    「ひぁっ、アリガトウゴザイマスっ」
     がちがちに身体を緊張させた主は笹貫から距離を取ろうとする。
     ――特定の刀だけではなくほぼ誰彼構わず近付けさせているように見えるのに、どうしてオレはダメなんだ?
     そんな思いに襲われる。
    「なんで時々片言になるの?」
    「いえっ!? なんででしょうっ」
    「オレのこと、嫌い? それとも、怖い? 気持ち悪い?」
     聞きながら、徐々に距離を詰める。逃げられないように、彼女の両脇に手をついて顔を寄せていけば、逃げ場を求めた審神者は布団に仰向けに寝たような姿勢になる。
    「怖くないですよ?!」
    「じゃあ、逃げないで」
     こつ、と彼女の肩に額をあてて願う。自分の居場所はここだ。要らない、と判断されるには、まだ自分はなにもできていない。  
    「お願いだから、オレのことも見て……?」
     唇が触れそうな位置で囁けば、ガッと大きく目を見開いた審神者は
    「それぇ!!」
     大きな声で叫んで笹貫の腕から脱げだした。
    「ちょっと待っ……!」
    「ありがとう! イイネタだわソレ!」
    「は? ネタ? なに?」
     バタバタと走っていった主は、先ほどまでの憔悴しきった様子は全くない。むしろ元気だ。霊力の供給というのが上手くいったのだろう、と笹貫はその部分には安心する。去った主と入れ替わるように笹貫の部屋を覗いたのは一文字則宗だった。
    「主はどうしたんだ?」
    「わからない」
    「大きな声が聞こえたようだが」
    「ああ、なんか、イイネタありがとうって言われた」
    「……ほう?」
     にまぁっと則宗が目を細めて嗤う。
    「お前さんも仲間入りだな?」
    「仲間ってなんの?」
    「すぐにわかる」
     まあ、焦るな。
     則宗はまたそう言って、うははは! と高笑いした。


     ++


    タイトルは
    「オレの主は同人作家」
    です。
    よくあるオタク審神者と、彼女のオタク特有の行動に翻弄される笹貫氏のお話。
    そのうちに笹貫が本気になっちゃうやつ。
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    Replies from the creator

    mct_ichi

    DONEここからはじまるたろさに。
    本丸軸。
    長くなったのでこっちにも載せます。
    たろさに書いた。 彼は私の本丸で初めて顕現してくれた大太刀だった。俗世が苦手だという話は知っていたから、あまりに馴れ馴れしくするのも負担になるだろうと思って少し距離を取っていたところはある。
     たぶん、傍から見れば彼の弟との方が仲良く見えていただろう。しかし、私は頼りになる彼のことが、本丸を御神刀として支えてくれている彼のことがずっと好きだった。恋愛感情を抱いていた。
     でも、俗世や現世とは違う位置にあるという発言を見聞きしていると、どこからどう見ても俗世じみているような人間の私は、彼には釣り合わない。そう思っていたから、なるべく近付かないようにしていただけ。だけど遠くから眺めているだけで満足していた、なんて可愛いことは言えない。次郎太刀と仲良くしていたのだって、馬が合ったというのもあったけど、なによりも彼を通じて太郎太刀の話を聞きたかった、なんてまた俗な意味合いが強かった。それをわかっていながら嫌な顔一つせず付き合ってくれる次郎太刀は本当にいいひとだと思う。本丸の中で、私の本当の気持ちを知っていたのは、彼の弟である次郎太刀だけだった。
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