さよならを告げるまでの約束一. 六月
手の中で小さく震えたスマホの画面が光りテディベアのスタンプが浮かび上がる。バナーをスライドし、パスコードの二つめの数字をタップしようとしたところで私は持ち上げた親指を止め、ポケットにスマホを差し込んだ。
(まあいいか……)
次に既読が付くのは女が到着を知らせる連絡を寄越す時だろう。あと半刻もすれば日付が変わる時間にもなるというのに、慌ただしくも浮かれて身支度を整える様子が思い浮かぶ。対して自分はといえば、数分と経たずに返ってきた言葉に感じたことなんて、せいぜい一晩泊まるところが見つかって良かった、程度だ。
初めはビジネスホテルでも探そうかと思ったが、辺りをぐるりと見渡してやめた。電車も止まり、バスもない、おまけに外は雨。こんな状況ではビジネスホテルどころか近場のラブホテルも漫画喫茶もどこも満室に違いない。給料日まであと一週間。一泊五千円の出費は大学生の自分にとってそれなりに痛い。それを考えると自分の体一つで一晩分の宿代になるともなれば、相手が誰であっても今の自分にとっては御の字だった。
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