過去の男、今の男?「これかわいいよな。」
指先が耳に触れる。カチャ、軽い金属の音がした。
「なんや急に」
急に顔触んな、といいつつ払いのけたりしない。そういうとこ優しいんだね。
「いや、可愛いなって思ったから素直に口に出してみただけだけど」
嘘。嘘。嘘。ピアスを付けてる神野がかわいいな、と思ったのは本当。ピアスそのものがかわいいとか微塵も思ってない。
「そーかい」
払いのけもせずされるがまま。ちらっとこっちを見てまたすぐにスマホに視線を落とした。ねぇ、そんな芸能人のゴシップニュースなんて見て面白い?
「ずっと付けてるんだな、これ。」
指先でピアスを弄る。俺が一目惚れした時からずっと付けてるこの赤くてシンプルなピアス。いつ見てもずっと同じのをつけてる。
「おー」
気のない返事が返ってくる。心ここに在らず、って感じ。
「なんか意味あるんだっけ、これ。」
「意味ぃ?」
意味くらい知ってるよ、とは思いつつカマをかけてみる。相変わらず俺の左手はずっと神野のピアスを弄ってる。
「あー……一応男の右耳のピアスはゲイって意味がある。わかる人だけわかる暗黙の了解みたいな?」
「そうなんだ、これいつ開けたの?」
思ってた通りの返事が返ってきたなと思いつつもう一回聞いてみる。答えてくれるかな。
「…………中学ん時」
……今の間、何?中学の時に何かあったの?俺の知らない所で俺の知らない神野に何かあった?
「自分で?」
「うん、ピアッサーでバチーンて。」
あ、多分これも嘘。開けたのは、多分、俺の知らない人、のような気がする。
「いや天川も開いとるやん。」
学校では外してて偉いよな、とスマホから目を離して俺の方を見あげる。うわ、かわいい。
「俺よりいっぱい開いてるし」
そう言って神野も俺のピアス、正確にはピアスホールに手をやる。ふに、と耳たぶと指が触れ合った。
「わっ…!」
ものすごく自然に耳たぶを触られて驚いて思わず声が出た。
「何、天川、耳弱いんかよ」
ピアス開いてんのに、と言いながら歯を見せて笑う神野。
ああ、もう!
知らないやつが開けた穴もそこにまだ入り込んだままのピアスも外して塞いで、俺で塗りつぶしてしまいたい。