「ウィリアム・テルごっこに僕を巻き込まないでください!」
そういって後輩は、頭にさっきまで乗せていたリンゴを机に投げつけた。私の弓は百発百中なのに……。乗り気じゃない後輩を無理やりつれてきたのは私が悪かった。でも来てくれたからには最後まで付き合ってくれてもいいじゃないか。もう用はないとばかりに部屋から出ていこうとする後輩の背中を見ていると、悪戯心が沸き上がってきた。ノリが悪い後輩を少しばかり驚かせてやろうと、矢はつがえずに後輩に向けて矢を放つ真似をした。
この時の私は完全に忘れていた。手に持っている弓は普通の弓が見当たらないからととりあえずもってきた、愛の弓であるということを。そして、愛の弓は矢をつがえずに放つと愛の矢が生成されるということを。
何の支障もなく生成された愛の矢は、美しい放物線を描き、後輩の背中に刺さった。それもちょうど、心臓の辺りに。
……これ、かなりまずい状況じゃないか?何せこの弓矢は天界謹製愛の弓。そうなったら当然、この矢が深々と突き刺さった後輩は
「先輩!付き合ってください!」
こうなってしまうわけで。どうしよう。
がっちりと手首をつかまれてしまって、逃げられない。
◇
後輩に矢を刺してしまってから丸一日たった。あそこまで熱血な告白をしてくるようなキャラだったのか……。などと思わず現実逃避してしまう。あの後なし崩し的に
「お、おっけー……」
と言ってしまった。完璧に押し切られた。この後輩、普段私に塩対応だからおとなしいと思っていた。そんなことはなかった。ぐいぐい来る。予想外の押しの強さに常にたじたじだ。今も後輩と手をつながされている。所謂恋人繋ぎというやつだ。
それにしても、私の不注意とはいえ対して好きでもない先輩に夢中にされてしまって、なかなかこいつも可哀そうだな、と思った。今後輩に握りつぶされそうなほど強く握られている私の手も可哀そうだけど。痛い。
確か、天使どうしは恋愛禁止だったはず。さて、上司になんて言い訳しようか。