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    KikakuKimotoko

    @KikakuKimotoko

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    KikakuKimotoko

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    電光線の夢ゆら、と頭が揺れる感覚がして、ゆっくりと目を開ける。この時点で明晰夢だ、と思った。

    ぱっと目にはいったのは木目がよく見えるフローリングの床。俺が座っているのは教室の椅子みたいな座面が硬い木の長椅子で、顔をあげれば天井から吊り下がった向日葵の吊革が揺れている。自転車の籠の金網でできた荷物棚を支えるのは公園にある鉄棒の錆びた鉄柱で、車内アナウンスは次の停車駅ではなく今乗っている路線の名前を繰り返す。

    「ただいまご乗車いただいておりますこの車両は環状線、電光線でございます」

    窓の外は真っ暗で、時々真っ白く光が瞬くのに合わせてごろごろと雷鳴が轟く。天井付近の案内板には、ただいまの通過駅 イ合/かメと表示されている。今視界に入ったもの全てに見覚えはない。それでも、放送を聞く前、目が覚めた瞬間にどこだかわかった。

    電光線。架空の路線。俺が見る明晰夢の一つ。明晰夢の舞台は基本的に不規則なローテーションで、他にもある。けど、電光線に乗った回数はその中でもかなり多いように思う。車内は毎回見た目が違うけど、必ず俺の記憶をちぐはぐに組み合わせて作られていて、外がいつだって雷雨の電車だ。名前もずっと変わらないまま。
    毎日のように夢を見る中で、明晰夢は普通なら年に数回、片手を使い切ることもないような回数しか見ない。それなのに今年はこれでもう三回目だ。やけに多い。



    辺りを見渡そうと左を向いたら、俺の隣に不明が座っていた。眠っているらしい。首が電車の揺れに合わせてゆらゆらと揺れている。そうか、今回はこのパターンか。
    「あけ、起きろ」
    そういって肩を揺する。
    眠たげな不明はごしごしと目をこすると、
    「あれ、ゆーちゃん」
    辺りを見渡して楽しそうに笑った。
    電車というのはものを隠すスペースがあまりない。


    電車の揺れにあわせて体はゆらゆら揺れるのに、左右どちらに進んでも車内で移動するとき特有の抵抗はない。

    「ね、ゆーちゃん。いいもの見つけちゃった!」
    「この切符があれば帰れるよ」
    座席に挟まった両面が真っ黒な切符を掲げて不明が言った。不明が言うからにはそれが正しいんだろう。俺の夢の中にいる不明はいつだってその場から生きて帰るために正しい行動をする。俺がそう思っているから。

    ……この場から生きて帰るためには、だ。この夢から醒めるためには、じゃない。


    目覚め方はいつも決まっている。……死ななきゃ目が覚めない。

    俺は死ぬのが怖い。死にたくもない。
    開け放たれている、黒々とした非常口の方に足を進める。ゆーちゃんどうしたの、と言う声が後ろから耳に届く。

    ただ、夢を見ているままでいるのであれば、現実の俺は眠りっぱなしだということで。
    本来なら緑色に光るはずの非常看板は、模様はそのままに暗い赤色に明滅していた。塗りつぶされたように真っ黒な向こう側は、時々寝落ちした時のノートみたいにぐちゃついた稲妻が走っている。

    それが嫌だ。許せないといってもいい。起きてなきゃ人生は進まない。寝ていて進むのは時間だけだ。

    そう。だからどれほど怖くても、今死ぬのを躊躇ってはいけない。ほかでもなく、起きるために。俺の人生のために。
    「また明日、あけ」

    振り返って、不明と視線を合わせる。
    そんな顔しないでほしい。俺の記憶が勝手に作った幼馴染は、少し離れた場所で車掌に捕まったまま、顔を歪めてなんで、と問うてくる。どうせ作り物なら、最後まで笑っててくれればいいのに、と思う。
    明晰夢からの目覚め方なんて、俺はこれの他に知らないんだよ。

    ふっと頬が緩む。お別れは笑顔で。
    そのまま手を軽く振って、暗闇の中に足を踏み出した。上を見上げても、明るかった車内すらもう見えない。少しの間落ちていく感覚がする。…そろそろだ。

    ばちん!と、全身を思い切り打ちつけたようなひどい衝撃が走って、目の前が真っ白になった。



    ▽悪夢を見た記憶はあるのに、どんな夢だったかあんまり思い出せない。確か俺が電車に乗ってて、不明も居て、それで。……えっと、何だったか。

    電車に不明と一緒に乗っていた。吊革の代わりに植物が生えてて、座席は教室の椅子みたいに固かった。窓の外は真っ暗だ。一緒に降りるために必要なものを目当てに手分けして探し回る。足元はゆらゆら揺れるのに、歩きやすくて不思議だった。黒い切符を見つけた。お互い一枚ずつ。これで帰れる。
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