褒美をやる、来い走れと言われれば、走る。
飛べと言われれば、飛ぶ。
行って来いと言われれば、行って来る。
待っていろと言われれば、ずっと待っている。
張り込みをしろと言われれば、何日だろうが張り込みをする。
加藤春、という男は、そうした向こう見ずで真っ直ぐな男であった。
だが。
撃てと言われれば、撃つ。
それが出来なくなってどれぐらい経っただろうか。
あの日を境に、加藤の性質はがらりと変わってしまった。
加藤の持つSub性は閉じ、そして花開くことは無くなった。
加藤の未来に、主人を得る無二の幸福を味わう瞬間は永遠に訪れない。
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さてこの世でダイナミクス性を持つ者は幸せだ。他人に身を預ける喜び。信頼という名の支配を与える喜び。
ダイナミクスの代償行為でSMが流行っているが、そんなものはダイナミクスのもたらす本当の支配・被支配の崇高さに比べたら何ということはない。
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