記憶喪失のかきかけ ***
——誕生日プレゼントは、もう貰った
俺も同じものでいいと思ったのは本当だった。それも、彼女らしいと思った。あの時には、もうただの『預かり物』ではなくなっていたのかもしれない。しかし、それを認めてしまえば側に置いておくことは出来ないと、この時の俺には覚悟がなかった。守り抜く事より、過去に縛られ失う恐怖に侵されたままだったのだから。
——あんたの誕生日は……
ハッとして目が覚めた。ブラインドは開いていて、登り始めた朝日が壁や天井を照らし始めていた。
「屋上……」
足音をたてずに、屋上への階段を目指す。まだ、アパートの廊下には至る所に香のトラップが仕掛けられたままだ。しかし、ちゃんと香がトラップを回避するルートを確保しているのだから、それを辿ればいいだけの話だ。造作もない。
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