君はたからもの、呟き、守るように、心配性 香がキッチンで洗い物をしている後ろで、ダイニングテーブルでコーヒーを飲む依頼人。この依頼人から言われた一言が、香にはピンとこなかった。
「冴羽さんって、心配性ですよね」
ケタケタと笑いながら、先日の出来事について話していた。
この依頼人の女性が泊まりにきてから、彼女の好みは『香だ』と宣戦布告したせいで、獠の様子が挙動不審なんだそうだ。
彼女が獠の隣でボソリと呟き香に近付いて行こうとすると、香を守るように彼女の行手を塞いでいた。
確かに、自分が好みだと言われても相手が女性だからと油断して、無防備になることは仕事柄良くないと彼女を警戒していたが、段々と彼女を遮るように側についていたはずの獠が、香の側を警戒しながらついて歩くようになった。
「だって、飼い主を守ろうとする番犬みたい!」
更にケタケタと笑い続ける彼女の表現に、香もつられて笑ってしまった。
「そうよねっ! 犬って自分の『たからもの』を隠すから、あたしの下着を隠すのに納得だわ」
香の発言に、ケタケタと笑っていた彼女の声がピタリと止まった。
「え、香さん、今の、本当?」
彼女に問いかけられて、素直に首を縦に振った。
「でも、付き合ってないんですよね?」
もう一度、香は素直に首を縦に振った。
「……たからもの、ね」
彼女には、獠が何を考えているのかよくわかったようだ。
当の香本人がそれを知るのは、いつになることやら。