秘密の答え、獠香、はぐらかす、確認、心臓がうるさい 昼下がり。窓から差し込む陽気が眠気を誘うから、そのまま愛読書を腹に乗せたままソファーで寝転んでいた。
心地いい風が頬を撫でる。ふわりと、いつもの柔軟剤の香りがする。そういえば、さっき香が洗濯物を干していたはずだ。
ソファーの横で気配が止まる。どうせ香だろうと、そのまま心地いい微睡に身を委ねていた。すると、唇に柔らかいものが触れた。それはすぐに離れて気配ごとリビングを出ていった。
気配が離れていくのを確認してから、瞼を開けた。リビングの天井を見たまま、今自分の身に起きたことを思い出す。
香が寝ている自分にキスをした。
まさか、あの香が、だ。つい数日前、何とか説得をしてやっとハンマーを出さずに唇に触れられるようになったばかりだ。もっこりまでの道のりは遠い。と思っていたはずが、香から歩み寄ろうとしてくれるとは。キスのひとつにあんなに真っ赤になって震えていたのに。
香を捕まえて聞いてみたい。キスをした理由を。きっと、最初は「そんなことしていない」とはぐらかされるだろう。だが、やはり香からキスをしたことを確認したい。
何度も頭の中であの唇の柔らかさを反芻する。まだ、数える程しか香の唇に触れていない。思い出すだけで自分の心臓がうるさい。こんなに浮き足立つとはらしくない。
起き上がりソファーの背もたれに背中を預けて天井を仰いだ。
リビングのドアが開く。
「あ、丁度よかった。コーヒー入れたけど飲む?」
何事もなかったように、香はトレーにマグカップを二つ乗せてきた。ローテーブルにトレーごと置いて獠の隣に腰掛ける。
マグカップに手を伸ばす香の手を掴んだ。
「ちょ、なによ」
「なあ、さっき俺に何した?」
指摘されて目を丸くする。獠の目を見たまま、少し頬が赤く染まる。羞恥心から上手く言葉が出てこないのか、口籠る。
「香ちゃん、もっかいしてよ」
更に顔を赤くして、ついに俯いた。
「……やだ」
掴んだ香の手を指で撫でる。少し驚いたようにピクリとしたあと、抵抗しない手を恋人繋ぎに握り直した。
「俺、嬉しかったんだけどなぁ」
ばっ、と俯いていた香が獠を見上げた。
「……ほんと?」
少し嬉しい気持ちが溢れ出て、香の声がうわずる。
「だから、もう一回してよ」
獠からおねだりされて、香はどんどん赤くなる。喜んでくれた嬉しさと今度は起きている獠の唇に触れなければならない恥ずかしさとで、パニックになっている。
握った香の手の甲に、獠が唇で触れる。
「香ちゃん、お願い」
香の口からは、う、とか、あ、とか言葉にならない声が漏れるばかりだ。
「……わ、わかった、から、目ぇ、閉じてて」
おとなしく香の言う通り目を閉じて待つ。ゆっくりと近付いた香の柔らかい唇が触れてすぐに離れた。
それ以上離れないように握った手を引いて、獠は香との距離を詰める。
そのまま香の唇に噛み付いた。