Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    seiogt

    @seiogt

    @seiogt
    金カム尾形。尾杉・杉尾・リバ好きです
    支部 pixiv.net/users/6222363
    ベッターprivatter.net/u/seiogt

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💋 🍞 😚 💖
    POIPOI 48

    seiogt

    ☆quiet follow

    バーで出会い仲良く恋愛の話をする杉と尾のお話の続き14
    姿は出ないし絡みも無いですがモブが割と出ます。杉と尾がもだもだするお話。

    バーで出会い仲良く恋愛の話をする杉と尾のお話の続き14尾形さんには全然電話が繋がらなくて、多分俺は着信拒否の刑を受けている。あれ以来尾形さんは一切店に現れなくなってしまったけど、それでもほんの僅かな望みにかけて、俺はほとんど毎日通っている。なるべく長く店にいたいから残業にならない様に仕事もこなして定時退社し、電車から降りるやいなや走って部屋で着替え、転がるように部屋を飛び出し、はやる気持ちを押し殺して、信号が変わるのを待つ。
    毎回今日こそは会えますようにって祈る気持ちと、あのでっかい目に軽蔑を乗せて射抜かれたらどうしたらいいのだろうという緊張で足がすくんでしまう。俺がやったことを思い出せばそんな怯えは許されないと分かってはいるけれど。
    言われた側の気持ちを考えてごらんって昔よくおやじに怒られたっけ。その教えも空しく、俺は酷い振る舞いをして尾形さんを傷つけてしまった。恐らくというか当然、会えたとしても話など聞いてもらえないだろう。俺を認識しただけで席を立たれるかもしれない。だとしても尾形さんに謝りたい。あの時のことは尾形さんのことでは無い、キスして無いとか好きでやったんじゃねえとかやりたくてやったんじゃないってのは違って、キスはしたかったけど出来なかっただけだし、好きでやったんだし、やりたくてやったんだってちゃんと伝えないと…。あれ文章おかしくね? なんか俺の言い方おかしくね? でも他に言い方ないよなあ。これってどういう意味なんだって尾形さんが混乱するような謎の方向に話を捻じ曲げてるような気がするんだけど。謎の方向ってなんだ。もしかしてこれ、一世一代のアレってやつなんじゃないか?
    今思い返せば、店で会う時はいつも楽しくて、尾形さんの隣にばかり座るようになった。尾形さんは俺の情けない話を聞いても失恋の愚痴を吐いても、必ず味方になってくれた。辛いことがあった時には俺の背中を叩いて、何も言わずにとっておきの一杯を飲ませてくれた。俺がいつも以上の味に驚いて、この酒なんですかって話しているうちに辛さの種なんて忘れてしまうことが常だった。そのくせ自分の恋愛には奥手で、例え失敗しても相手を尊重してトライする姿には健気さがきらきら光っていた。その生まれたてのひよこみたいな姿をとてもいじらしいと思えたのは、カウンターには必ず二人きりで座っている故の甘えではなかったか。もしも最初から房太郎や宇佐美さんみたいなコミュニケーション豊富な人間が側にいたら、尾形さんの柔らかい眼差しが俺にだけ向けられることは無かっただろうし、恋愛指南のために一夜を共にすることも無かったろうと思う。もしそんな話が出ても、房太郎なんて嬉しそうに笑って尾形さん俺も教えて欲しいなあなんて横やりを入れてくるに決まってる。下心も隠さずに堂々としているところは俺からしたらむしろ羨ましいけど。
    ずっと二人きりの貴重な時間を過ごしていたことにに気づかないなんて俺はなんて馬鹿なんだろう。尾形さんが飲ませてくれた、丸いリンゴの沈んだブランデー。その琥珀色のカルヴァドスの瓶は俺によって叩き割られて、罪のないリンゴは哀れに転がっている。ぱんと砕けたガラスの音で、俺はようやく気がつくことができた。
    一緒に迎えた朝、腕の中で眠る尾形さんの頬にキスしてしまったのは魔が差したからなんかじゃあない。
    バーのカウンターで、ほらこうすると金色だって近づけられた尾形さんの唇。鼻先が触れたあの時に無理矢理にでも吸い付けばよかったのに、今では何もかもが遅すぎる。
    信号のランプが変わって横断歩道を渡り始める。そして夜風を浴びた身体ですっきりと思う。尾形さん、俺はあなたが好きです。

    人生にはあらゆるものを超えて全てが完璧に仕立てられた、運命を感じる瞬間がある。ちょうど今みたいに。
    俺がバーの扉を開けると、いつもと同じ席に尾形さんが座っていた。伸びた背筋も刈り上げられたうなじの白さもちっとも変わらない。ただ、尾形さんと隣に座った男はキスをしていた。とても静かに。店員の目をかい潜って、いやきっと見られていても構わないのだろう。そんなキスだった。
    おお、尾形さんやるじゃん。でも店内じゃあそんな真似止めといた方がいいぜ。俺みたいなやつが殴りかかっちまうかもしれねえからな。




    シュレッダーに紙を食わせながら、今更だが、こんな記憶も細切れになって消えてしまえばいいのにと思った。この間宇佐美に事情を話しはしたものの、ちっともこれから先を考えることが出来ない。セックスって結構イーヴンだろう。それお前だけが悪いの? と投げかけられたが、ここまで拗れているのだから大概俺が悪いんだろう。いつからこんなことになってしまったんだろう。少なくともバーで杉元さんの隣に座らなければこうはならなかった。お互い失恋したり、こんな人が好きだとか、慰めたり慰められたり。決して俺に他意は無かった。ただ、一緒に居酒屋へ行ったことが始まりだったように思う。真正面から見た杉元さんの姿が頭のてっぺんから足先まで跳ねるように無邪気で愛らしくて話をすれば楽しくて。いつしか杉元さんの話を聞くことと、酒を飲みに行くことの意味がすり替わっていったんだろうと思う。
    しかし俺が悪いばかりでは無いはずだ。杉元さんは天才的に人の心に居座るのが上手だ。その点はほとんど悪魔がかっていて、そんな人間に助けを求められたら誰だって力になってあげたくなる。きっと周りの人間だってそう思うだろう。みんな俺と同じはずだ。
    はあ、とため息も吸われたところでシュレッダーのスウィッチを切る。仕事をしていれば気は紛れるが、ほんの少しでも時間があればぐちゃぐちゃと頭が煮詰まってくる。そういう誰かのそばにいて陰鬱な時間を追い払いたい時にすぐ連絡が付く恋人がいるのは便利だ。時々、一晩中連絡が取れない日があるにせよ。
    スマートフォンで連絡をとると今日のアポイントが取れた。アポイントだって! ここのところつい自分の部屋より入り浸ってしまっているが、普通の恋人同士がどんな態度で相手の家を訪れるのか分からない。思い出したくも無いが杉元さんにこき下ろされた日以降は入院する気持ちで逃げ込んでいる。もちろんこんな気持ちで寝るなんて考えられないし、正直なところ連絡が取れない日の誰かの影を気にしてベッドを共にできるほど器用でもない。
    今日も仕事用のカバンを投げ捨てて邪魔にならない所にスーツを吊るし、ただひたすら他人の匂いのするシーツに包まってたまに酒を甞める。今週でこんな日が三日もあったので、部屋の主もさすがにそっとしておけなかったのか気遣う声をかけられた。しばらくはのらくら誤魔化していたがどうやら俺は嘘が下手らしかった。つまり、言葉巧みに杉元さんとのことを白状させられてしまったのだ。まずい。
    しかし、心配をよそに相手はにっこりと微笑んだ。俺に他にも誰かがいるのは喜ばしいことだが、俺が傷ついているのはみたくないと言い切った。今の関係や生活を変えることは出来ないが、よければこの部屋にこないかと、要するにこの部屋に住む権利を持たないか、ということだ。きっと自分と同じ立場になったことに安心したのだろう。急な話に答える言葉を選んでいるうちに相手は今日も出ていった。恐らく、こんな風な相手の不在を気にしなければ悪くない話だろう。
    ベッドから降り、広い部屋のカーテンを開けて夜景を眺めて酒を甞める。この高いウイスキーは辛いばかりでちっともうまくねえ。でも今はこれを飲むしか仕様がないのだ。


    自分の部屋に帰って気に入りの服や身の回りの道具を鞄に詰める。何か湧き上がりそうな気持はあるが、それはこの部屋に全て置いておこう。これから行くあの高い階の部屋からいつものバーまでは遠すぎるから、せめてマスターに最後の挨拶はして行こう。久しぶりの滑らかな丸氷に冷やされたウイスキーは美味いことだろう。舌の裏に涎を溜めながら店に向かう。
    恋人はもう店に着いていて、椅子に座るなり俺のための酒がサーブされた。いつも部屋で飲んでいるからとの理由で選ばれた酒が目の前にどんとある。だからこれじゃあねえんだよな。しかも常温。俺は氷で冷えたウイスキーが薄まっていくのを楽しみたいんだよ! と思うがそんなことを言うのは野暮だ。慣れればこれだって結構美味いかもしれないし。にこにこする店員と隣に座る男に見つめられてごくりと飲む。辛い。ただ胸は焼いてくれる点でアルコールには感謝する。
    飲みなれない酒をあおっていると普段より酔いが回る。お代わりをオーダーする男をひじをついて眺め俺はしみじみと思う。そもそもこいつは俺を好きなのか? 俺はこいつをちゃんと好きなのか? 上手くいく恋愛というものに憧れてここまできてしまったんじゃあないのか。
    最後に確認しておくべきだと酔いが回った頭で考える。一緒に住めるくらい落ち着ける人が良いわよって誰かが言っていた気がする。あんた、そんな髭面して肝の小さいとこあるんだから。うるせえな、俺だって自分のことくらい分かっている。でも、まだ何か言われていたような。とても大事なことだった気がするんだが思い出せない。それに今はちょっと取り込み中なんだ。だって、この一緒に住むだろう男にキスしておかないと。自分で選んだ道が大丈夫だって確信しておかないと。俺の身体と頭がばらばらになって、また何日もシーツに包まって過ごすことになる。今、何かが目に反射した気がするが生憎これから俺は瞼を閉じる。そうすれば俺のほの暗い心を何かが照らしたってもう眩しくないだろう。そっと男の上着を引く。
    「尾形さん!!!」
    店に飛び込んできたのは、目を金色に光らせた杉元さんだった。薄暗い中でもきらきら光る瞳が泣いているように潤んでいて、それなのに綺麗に見える。深緑色のモッズコートがなんて懐かしいんだろう。
    「杉元さんお久しぶりです。ちょうど良かった、マスターにも伝えておこうと思って今日来たんです。しばらく来れないだろうから挨拶にきたんですよ」
    「えっ」
    杉元さんが目を丸くする。さあこれで安心してくれ。
    「そう言わず、またいつでもお二人で来てくださいね。いつものお酒取っておくんで」
    「それは嬉しいな。もし別れることになったらまた来なくちゃあ」
    「尾形さんにそんなこと言われたら寂しいけど店来ないでくださいとしか言えませんよ」
    ささやかな別れを惜しんだ。この店も長い付き合いだし様々なことがあったと思うと感慨深い。
    「しばらく来れないってどういう意味ですか? 俺、めちゃくちゃ電話したんですけど」
    マスターとの会話に被せるように、杉元さんの声が滑り込んできた。そうなる気はしていたが。俺にだけ分かるように荒がっている。
    「電話のことはすみません、知らない番号は拒否する設定にしてるんです」
    「いやもうそこじゃなくて。どうしてもう来ないんですか? 最近ずっと来て無かったですよね」
    そんなに俺ばかり責めないでくれ。もう会わないようにするのだから人前で何か言うのはもう勘弁して欲しい。
    「この人と一緒に住むんです。結構遠いんでしばらく来れないと思って」
    「はあ? 聞いてないですよ!? なんで急に同棲することになったんですか?」
    同棲。同棲なのかこれは。こんな状況でも一緒に住むことならば同棲って呼んでいいのか、同居とかじゃなくて?
    でも俺のプライベートに関してはここまで杉元さんにキレられる覚えはない。大人として最後くらいにこやかに終わりにするべきだと思う。
    「何故そんなに怒るんですか。お店にも悪いですし落ち着いてください。…この間はすみませんでした。俺は酔っていたんです、野良猫に引っ掻かれたと思ってどうか忘れてください」
    「どうしてそんな…」
    杉元さんは顔を歪めて声を絞った。この人、良い人なんだなあ。きっと鍋を囲んだ時に俺に余計なことを聞かせてしまったと思って気の毒がってるんだろう。せめて杉元さんの罪悪感を無くしてやりたいと思う。俺も今になって人を思いやれる安らかな気持ちを貰えた気がする。
    「実は杉元さんのおかげで同棲することになったんです。俺も嬉しい。ありがとうございます」
    にっこりと笑うことが出来て満足だ。俺の隣の男も内情を察したようでにこやかに俺に目配せをする。もうこれで義理は果たしただろう。
    「マスター、杉元さんに何でも好きな一杯をご馳走してください。マスターも一杯どうぞ」
    心得てグラスを磨いていたバーテンはもう一度こちらに来て礼を言い、この場が宥められる。隣の男が俺の代わりに幾枚か札を滑らせたのを合図に立ち上がった。
    両手をコートに突っ込んで俯いたまま立ち尽くしている杉元さんの横をすり抜けてマスターが開いてくれたドアを抜ける。労わるように男が俺の腰をそっと摩ってきて、やっと恋人らしく振る舞われたのだと思った。
    あとは何も望むものは無い。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭😭😭😭😭😭☪🅾🎋🅰ℹ🆔🅰🌱🅾😭🙏💒🙏😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭😭🌋🙏😭😭😭🚧🚧🚧🚧😭🙏🙏🙏🙏🙏😭
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works