「セト、少し良いか?」
オシリスがセトを呼び止めたのは、夜の闇が深まり始めた神殿の廊下だった。
自室に向かう途中ですれ違った二人の頭上には満点の星が広がり、等間隔で立ち並ぶ柱に四角く切り取られた月明かりだけが、足元を白く照らす。
振り返った白布がふわりと空気を含んで夜を舞い、冠の先で声の主をとらえた。
深く被ったそれを軽く持ち上げてみても、柱が落とす影に隠れたオシリスの表情は、セトからは見えそうになかった。
「大切な者に何かひとつ贈り物をするとしたら、お前は何を選ぶ?」
顔のない声が突拍子もなく尋ねる。
「なんだよ、藪から棒に」
「そうだな、言い方を少し変えよう。お前が愛するネフティスに贈り物をするとしたら」
3747