狐に嫁入り 壱「おキツネちゃん」
と、嫁から呼ばれる事にも、慣れてきた。
鼻がかった甘い声で呼び掛けられるのは、いつだって心地好い。
「寒いんでしょ?こっち来な」
新婚らしく二つの布団をぴたりとくっ付けてはいるが、身を寄せ合っては、いない。
弥生の夜はまだ冷える。先ほどから布団の中で身動ぎしていた雨彦は、ひょこ、と掛け布団から顔を出した。
藤紫色の瞳が、暗がりの中で光っている。
「ほら」
隣の布団で横になっている嫁......翔真が自分の布団を気持ち捲り、招く。
相手が寝巻きを着ていることに、雨彦は安心した。
同居してこの方、日々色仕掛けしてくるので、いなす事にも大分慣れたが、それでも、十代半ばの少年にとって刺激が強すぎる時もあった。
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