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    ぁぃみゃ

    絵とSS置き場
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    ぁぃみゃ

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    久々の丸モナSS。丸男一人称なのに本編と口調違いすぎってツッコミはやめて…
    メインテーマは「丸男に『結婚してよかった』と思って欲しい」「モナミに頼る丸男が見たい」の二つ。

    書いといてなんだが、丸男は幸せだろうと円満だろうと終わりを認めなさそうだと思う。いつも自分と解釈違いだ…

    ##SS

    明日のことを言えば モナミとおれは、揃いの指輪をして、揃いの苗字で生活している。おまけに、住所まで一緒だ。
     つまり、結婚した。結婚して、寝食を共にしている。
     世間一般の人間が自分の未来を夢想するとき、切っても切り離せないもの。ありきたりな幸せの象徴。ふたりで不自由になる選択。
     それが結婚に対する、以前までの正直なイメージだった。
     だが、自室の無機質な蛍光灯の下でも、左薬指の銀色は眩しく高潔な輝きを放っている。おれが唯一身に付けているアクセサリーだ。
     ありきたりだろうが不自由だろうが、この指輪が他でもないあいつと同じであることを、おれは誇らしく思う。
     浴室から水音と歌声を響かせている彼女も、同じように考えてくれていたら。……あいにく、直接訊く勇気は持ち合わせていない。

     思い返すと、お互いの第一印象は「自分とは違う世界に住むヤバい奴」という認識だった。ここまで関係が進展するなんて、出会った当初からはまるで想像もつかない。未だに、朝目覚めるたびにすやすやと呑気に眠るあいつの寝顔を確認している。それでやっと、あいつと一緒に暮らしていることを実感できるからだ。
     おれはいつからか、けして良くはない第一印象を無意識に改めていた。モナミに近づく奴のことを、特に異性の場合、強く意識するようになった。敵意を持っていた、と言っても差し支えはない。
     そして、おれにとっての敵と親しげに話をしていたモナミには、その後しばらくそっけない態度を取ってしまっていた。
     完全に八つ当たりだ。今となっては、子供じみた真似をしてしまった自分の心の狭さにいたたまれない気分になる。
     けれど、当時のおれは、仕事柄親しい友人を作っていなかったこともあり、それも友情のひとつの形だと思っていた。
     その独りよがりで複雑な感情が、別の意味を孕んでいることに気付くまでにはそこそこの時間を要した。そして、その感情を受け入れることにも。

     蛍光灯がちかちかと瞬いた。このマンションは2LDKではあるが、それぞれの自室が6畳間であることや浴室の音が丸聞こえなことから分かるように、そこまで広くはない。その上、モナミが居間に色々家具を置いたせいで余計に狭く感じる。
     しかしながら、口ではつい不満を言うが、これ以上何かを望もうとはまったく思わない。モナミが相変わらずドジで大食いなせいで、思うように預金口座の残高が増えないことには、少なからず危機感と焦りを覚えるけれど。
     それでも、間違いなくここには、おれが憧れていた普通の幸せがある。
     日々、玄関で「おかえり!」と笑顔でおれを迎えるあいつを見るたび、どうしようもなく満たされた気分になるのだ。

     だが、この世の万物と同じように、この幸せにもいつか終わりが来る。
     もし、それが明日だったら。今日限りで、この大きくはないけどあたたかい場所が……。
     心臓のあたりがざわざわとした感覚に陥る。どうして大切なものを得ると、失うことばかり考えてしまうのだろう。
     その時、ふと思考の端で気付く。シャワーの音が止んだ。
     そろそろモナミが上がってくる頃か。あいつに今の気持ちを話せば、「深刻に捉えすぎ!」と軽く笑い飛ばしてくれるに違いない。
     やっぱり、夜に考え事をするのは良くないな。夜には、平常では不思議なほどに感情を昂らせ、不安を壮大で困難なように見せる力があると感じる。
     ……頭ではそう分かっているんだが、おれ一人ではどうしても悩みを誇大に捉えてしまう。
     モナミはまだ来ないのか。あいつにしかできない事なのに、こうして待たせるなんて。
     しばらくして、脱衣所の扉が開くまで、おれは所在なくがらんとした自室を眺めていた。



    「つまり、『幸せすぎて怖い』ってことね」
     思わず閉口する。おれはそんなことに、先刻までうんうんと頭を悩ませていたのか。
     いや、モナミの総括は間違っちゃいないが、そう言われるとまるで、うら若き乙女の悩みのようだ。思わず苦い顔をしてしまう。
     おれの顔を見て、モナミがからからと笑った。
    「突然何もかもが終わることを、そんなに怖がらないでいいのよ。そりゃあ、明日隕石が降ってきて全部粉々になるかもしれないけどさ」
     こいつが言うと全然洒落にならない。ぼんやりと、地球と隕石がぶつかる映像をイメージした。
     一呼吸置いて、けどね、とモナミが明るい顔で言い切る。
    「その時に、あぁ、幸せだったなーって思えたら、それでいいんじゃないかな」
    「……そうか」
     ずいぶんと簡単な答えだ。
     なのに、不思議とそれでいいと思えた。
     どうにもならなかった時は、きっと、モナミとこの部屋のベランダから隕石を眺めるんだろうな。見返すことは二度とないのに、モナミは写真を撮って「すごい、すごい!」と騒ぐに違いない。
     その光景を想像して、思わず笑ってしまう。
     ——ひとりで難しく考えすぎた。
     とどのつまり、たとえ明日終わりが来ようと、こいつと最後まで笑っていられたらいい。
     モナミのこういう所に、楽天的な優しさに、おれは助けられている。
    「お前に話してよかった。……お前がいてくれてよかった」
     モナミはえっ、と耳を赤くしたのち、視線を落とした。そして、左手の薬指に嵌った銀色の指輪をくすぐったそうに眺めてから頷いた。
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