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    ゆきなり

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    ゆきなり

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    バギーさんが道化の名乗るまでの妄想。

    #バギー
    babyCarriage

    道化の海賊物資補給に立ち寄ったとある島、船の見張り台から街の様子を伺っていたバギーの目に港街の奥の方、建物の途切れた先にデカくて派手なテントが見えた。
    バギーは双眼鏡から目を離し、甲板へと降りるとレイリーのもとへ行き今見た物を報告する。
    テントの正体が何なのか気になり一刻も早く知りたかったのだ。
    曰く、あのデカくて派手なテントは「サーカス」と云う曲芸やダンスなど様々なショーをする為の物らしい。一般的にサーカス団と呼ばれる一座は様々な土地を移動しテントを張って興行する。テントが張れる広ささえ確保出来れば、何処へでも出向くのだそうだ。バギーの興味は話を聞けば聞く程膨れ上がった。
    「見てみたいか?サーカス」
    レイリーがバギーの頭を撫でながらそう問えば、バギーは目を輝かせて「観たい!」と答えた。

    島に上陸し、バギーとシャンクスそしてギャバンが買出しに出る間、レイリーはサーカスを調べに行く。
    サーカスと言っても、曲芸だけではない。異型の人間を化物と呼び見世物にするフリークショーが含まれるサーカスはいくら海賊育ちの子供達と言ってもあまり見せたくはない。そう思いレイリーはサーカスを調べたのだった。
    規模の大きなサーカスだが、至って健全なショーのみの様でレイリーはコレならば大丈夫そうだとチケットを取った。
    シャンクスには観たいか聞きはしなかったが、バギーが行くと言えば彼は十中八九着いてくる。それから、我らが船長も行きたがるだろう。

    チケットを持って船に戻ると何やらぎゃあぎゃあと喚く声が聴こえた。またシャンクスとバギーがくだらない喧嘩でもしているのかと、レイリーは溜め息を落とす。今日は喧嘩したらサーカスは無しだと言ってやろうかと思いながら甲板へと上がると、喧嘩ではなくバギーが怒り狂うのをシャンクスを始めとした数人のクルーで宥めている最中であった。

    「騒々しいな。何事だ?」
    レイリーが近くに居たスペンサーへと声を掛ける。
    「詳しくは分からないんですが、どうやら買出し中にバギーが街の人間と喧嘩になったらしくて。ギャバンとシャンクスで抑えて連れ帰って来たんですがまだ癇癪が治まらないんです。」
    こんなに怒り狂うバギーも珍しくて、みんなどう手を付ければいいのか困ってます。
    淡々とした口調で説明するスペンサーも長めの前髪から覗く瞳に困惑の色が浮かんでいた。
    レイリーは顎髭を撫でて少し思案した。

    「バギー!」
    レイリーが喚き散らしているバギーを呼ぶ。
    良く通る低音、その声を聞けば無条件に振り返ってしまうくらいにバギーの身に染みた声。
    バギーはそれまで喚き散らしシャンクスやギャバンが手を焼く程に暴れていたのが嘘の様に大人しくなる。
    バギーを抑えていたクルー達もレイリーの登場にホッと胸を撫で下ろす。何しろ、レイリーの他にバギーを宥めてくれそうなこの船の船長ロジャーは暴れ回るバギーを面白がって酒の肴に眺めていただけだったのだ。
    「バギー、こっちへ来て何があったか話せ。おれに話してそれでも治まらんのならまた喚き散らせばいい。」
    レイリーの言葉に項垂れながらバギーは先刻までの勢いが全て抜け落ちた様にとぼとぼとレイリーに歩み寄った。
    まだ、この世に生を受けてやっと二桁になったばかりの幼子だ。小さな体いっぱいにどうしようも無い怒りを抱える程の事とは何なのだろう。
    レイリーはその場にしゃがみバギーと目線を合わせ、先ずは落ち着いて話せる様に優しく頭を撫でてやった。

    「街のヤツが、おれの顔見て『ピエロの子供だ』って笑うんだ。」
    ポツリと小さな声で話しながらまた怒りが満ちて来たのか、バギーはレイリーの服の裾をギュッと握り締めて震えている。

    街へ買出しに行くと、バギー達と歳の変わらない子供達がチラチラとバギーの顔を見ていた。特徴的な真っ赤で真ん丸のバギーの鼻は何処に行っても目立つ物であったし、「変な鼻!」と見ず知らずの子供に笑われた事もある。それだけならバギーも慣れた物でその場で怒鳴ってお終いなのだが、しかし今回は少し事情が違った。
    この街にサーカスが来ていたおかげで、街の子供はバギーを見ては「ピエロだ!」と追い回す子も居たと言う。
    ピエロと言えば、サーカスにとってはショーを盛り上げる無くてはならないと言っていい程重要なキャラクターであるが、その役回りと言えば、如何に面白く転けるか、派手に間抜けな姿を晒して笑いものになるかに掛かっている。
    子供達からしたらそれは面白おかしい物で、からかって遊びたいと思うのだろう。
    しかし、バギーはピエロの存在すら知らないのだ。
    初めの内はピエロじゃないと言ってトラブルを起こさない様に対応していたが、何処にでもタチの悪いクソガキは居るもので、しつこく絡まれ遂に堪忍袋の緒が切れて喧嘩になった。
    オーロ・ジャクソン号の中では一番年少で力も弱いバギーだが、今よりもっと小さな頃から海賊見習いとして海賊船で育ってきたのだ。そんじょそこらのただの悪ガキと比べれば強い方であったしただの喧嘩で負けはしない。
    負けた悪ガキ達は「ピエロのクセに!」と捨て台詞を吐いて行った。
    その後も買い物に回った店でも、「ピエロが好きなのかい?」と悪気無く聞いた店主に「誰がピエロだ」とすっかり沸点の低くなったバギーが噛み付いてしまう始末になり、それを宥めようとしたシャンクスとも喧嘩をした。
    街の人間からしたら、ピエロを真似て赤鼻を付けている様に見えたのだろう。微笑ましいと思って声を掛けると怒鳴り喚くバギーにさぞ困惑した事だろうとレイリーは思った。
    とにかく、行く先々でピエロピエロと言われ、笑われ、バギーは我慢の限界に達し、それを発散させる方法が喚き散らし暴れ回る事だけだった。

    シャンクスとギャバンの補足も一通り聞き終えると、バギーはレイリーにくっ付いてグスグスと泣いてしまった。「おれは弱くない。おれは海賊だ、ピエロなんかじゃない」と時折しゃくり上げながら泣いて訴える。
    街の子供と喧嘩した際に、「ピエロじゃない海賊だ!」とバギーが怒鳴ると相手の子供に「お前みたいな間抜けな赤っ鼻海賊ちっとも怖くないね!お前にゃサーカスでピエロになって笑われる方がお似合いだ!」と言い返されたのが一番堪えたようだ。
    バギーは怒りの段階を越えてすっかり悔しくて悲しくなってしまったらしい。
    いつにない様子のバギーにシャンクスまで眉尻の下がった不安気な顔をしている。

    「おい、バギー。そんなに何時までも泣きべそかいてちゃ海賊にゃなれないし、本当にピエロになっちまうぞ!」
    いつの間にかバギー達の側に来ていたロジャーがそう言ってバギーの頭をワシワシと豪快に撫でる。
    バギーはグズグズと鼻鳴らしながらも、必死に泣くのを堪えて顔を上げた。よっぽどピエロになりたくないようだ。
    「なんで、泣いてたらピエロになるんだ?ピエロは何時でも笑ってるって、聞いたけど...」
    バギーは滲む涙をゴシゴシと拭いながらロジャーに聞く。
    「バギーはまだピエロを見た事無かったな?ピエロってのは笑った顔に見える化粧をしてるんだぜ。だから何があっても笑ってる様に見せる。泣き虫だからそうするんだ。だがな、ピエロは道化師。人を化かすのが上手いヤツじゃなけりゃ務まらねぇ。サーカスにとっちゃ看板にもなる一番の花形よ。ただの間抜けにゃピエロは出来ない。ショーの中じゃ笑われ物でかっこ悪いかもしれねぇが、一番人をからかって笑ってるのもピエロなんだ。お前も、笑わてムカついて悲しくなっても、最後には笑える奴になれよ。道化(ピエロ)の海賊だって?上等じゃねぇか!いいかバギー、おれ達は海賊だ。海賊ってのは何時だって大声出して笑うもんだ。どんな事も笑い飛ばせる男が海賊だ。よっく覚えとけ!」
    バシンっとロジャーはバギーの背中を気合いを入れるように叩き、わははっと豪快に笑う。
    それにな、とロジャーは続ける。
    「おれはピエロ好きだぞ!」
    バギーの耳元に口を寄せて内緒話のように囁いた。ロジャーの言葉にバギーの涙がピタリと止まる。
    「船長がそう言うなら、おれピエロも悪くねぇかなって思えてきた...」
    そうポツリとこぼし、はっはっはと笑いだしたバギーにその調子だ!とロジャーが囃し立てる。

    「すっかり機嫌は治ったようだな、バギー」
    レイリーが声を掛けると、バギーは少しバツの悪い顔をして「大騒ぎして、ごめんなさい」とその場に居た全員に頭を下げた。
    クルー達は口々に、気にすんな!、面白かったぞ!など好き勝手言ってその場を後にする。
    「そうだバギー、サーカスは観に行きたいままか?」
    レイリーがサーカスのチケットを取り出しながら聞くと、バギーは即座に行きたい!と返す。
    「本物のピエロがどんなモンかおれは自分の目で確かめなきゃいけねぇ!」
    バギーが拳を握り気合い十分になっている横では、シャンクスとロジャーがおれもサーカス行くと騒いでいた。

    バギーとシャンクスにとって人生で初めてのサーカスは忘れられない経験になった。
    特にバギーにとっては彼の人生に大きな影響を与えるモノとなった。

    真っ赤で真ん丸な鼻はずっとバギーのコンプレックスではあるが、それを活かせる「ピエロ」をバギーはすっかり気に入ったのだ。
    サーカスの派手で華々しいショーの数々も彼はいたく気に入った。
    いつか独り立ちした暁には、サーカスの様な海賊団を立ち上げるのだと、心に密かに決めたのだった。


    海賊王「ゴールド・ロジャー」の処刑を見届けた後、バギーとシャンクスは袂を分かった。
    止まらない涙もそのままにバギーは雨の降りしきる街を走り抜け、嘗てのロジャーの言葉を思い出していた。
    「笑え、笑え、笑え...おれは道化(ピエロ)だ。泣いた顔は見せない。笑えよ、おれは海賊だ。いつだって笑うんだ。」
    はっはっと無理やり声を出して笑おうとするが、上手くいかない。
    がむしゃらに走り続けて、漸く辿り着いた宿屋の小さな部屋の中、バギーは蹲って一頻り泣いた。

    気の済むまで泣いた後、バギーは立ち上がると荷物の中からいくつかの化粧道具を取り出した。
    狭いバスルームの鏡には泣き腫らした不細工な目に、いつもより赤色が濃くなった丸い鼻、すっかり口角の上がらなくなったへの字口が写し出される。
    先ずは口を笑みに変える。真っ赤な口紅を唇からはみ出す程に大きく弧を描く。
    赤色の紅で目の周りにラインを引く。
    参考にするのはあの日見たピエロのメイク。

    「はっはっは、なかなかいい感じじゃねぇか!」
    バギーはメイクの出来栄えを満足気に笑う。本当はとんでもなく下手くそだが、それを突っ込むヤツはここには居ない。

    「よし、旗揚げするには先ずは仲間を作らねぇといけねぇな。どっかに海賊になりてぇ猛獣使いや曲芸師が居りゃいいんだが。」

    宿屋を出て、当てどもなく歩き出した「道化のバギー」。東の海の片隅でその数奇な運命の幕を上げた。


    END
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