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    やさか

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    やさか

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    現パロティーンズラブ風フェルジタです。
    ネタ帳レベルの文章で、何でもありの方だけどうぞ。

    イケメン仏頂面上司が女子高生みたいな告白をしてきた件について1 それは昼下がりの少し眠くなるような時間帯のことだった。入社後、半年ほどの研修期間を経て、この部署に配属された。OJTから仕事を教わり、この部署にきてもう半年ほど……つまり入社してそろそろ一年経つ。この頃になると仕事もだんだんと覚え始め、定型業務ともなると少しだけ気が抜けてしまう。それではいけないと、あくびを噛み締めてPCに向かっていると、メールが一通飛び込んできた。
    (ん……)
     予想していない差出人と内容に思わず二度見する。しかし、見間違いではないらしい。
    (どうして別の部署の部長さんから、呼び出しが?)
     差出人はジータの部長ではない、隣の部署の部長であるベリアルだ。部長という割には若く、きっとジータと十も離れていないだろう。この年で部長になったのだから当然優秀で、特に人を使うのがうまいと先輩は言っていた。ジータは一社員として彼のことは知っているが、あちらがジータのことを知っているかは定かではない。すれ違い挨拶をしたことくらいはあったかもしれないが、記憶によれば明確な接点はなかったはずだ。
     その彼からシンプルな呼び出しメールだ。
    「今日の午後どこか空いてないかい? ゆっくり話がしたい」
     用件は書かれていない。ジータ自身思い当たる節もない。気になったジータは、今なら空いていますと手早く返信した。
     
     ベリアルは個人面談用の個室を予約してくれたらしく、そこまで来てくれと言われた。
    (なんだろう……)
     道中、穏やかではいられなかった。もしかしたら、来年度からはベリアルの部署へ異動になるのだろうか、もしくは、自分が何かミスしてしまい知らないうちにベリアルの部署に迷惑をかけてしまったのだろうか。いろいろな憶測が浮かんでは消えていく。そうしているうちに待ち合わせ場所の個室に到着する。ノックし、相手の反応が返ってきたことを確認しドアを開けた。
    「突然すまないね、座ってくれ」
    「失礼します」
     彼の向かいの椅子に腰掛ける。
    「アイスブレイクも無しで悪いが、本題に入らせてくれ」
    「はい」
    「うちの会社は社内恋愛は禁止していない。当然結婚だって自由にすればいい。だから、辞めることはないと言ってやってくれないか? 君だって結婚するならアイツの収入は安定してたほうが好ましいだろう?」
    「……」
     何を言っているんだ? ジータの素直な感想はそれだ。
    (社内恋愛? 辞める? 結婚?)
     何一つ全くわからない。そんなジータを置いてけぼりでベリアルは続ける。
    「君だって、恋人としてではなく一部下としての立場であれば、辞められたらマズイことは理解できるだろう? オレたちが引き止めたくなる気持ちもわかってもらえるとは思うが」
     とりあえず、自分の上司の誰かが結婚か何かで仕事を辞めようとしているらしい。それは察したが、どうしてそれをジータに相談するのかがわからない。
    「あの……すみません、話が全然わからないんですけれど……。私の上司の誰かが結婚を機に会社を辞めようとしていて、それをどうして私が止めるように言わないといけないんですか?」
    「君の恋人だろう? 君が言うのが自然だと思ったんだが」
     恋人? ジータは首を傾げた。あいにく、ジータのやりたいことの優先順位の中で、恋愛は下の方から脱出した試しがない。つまり、そんな人はいるはずがないのだ。
    「いえ……その……恋人はいないです」
    「?」
     そこで初めて、ベリアルは眉をしかめた。
    「……もしかして、喧嘩でもしたのかい?」
    「あの……恥ずかしながら、そもそも、そういう人がいたことは人生で一度も……」
     どうしてよく知りもしない隣の部署の部長に自分の恋愛遍歴を語らなくてはならないのか。そうは思ったが誤解されたままではまずい。
    「……」
     ベリアルは無言で少し考え込む。そして、一つの質問を口にした。
    「ルシフェルと付き合っているわけではないのかい?」
    「え……」
    「ルシフェルだよ、君の部長の」
     耳を疑ったが間違いない。目の前のベリアルは、はっきりとルシフェルと言った。
    (ど、ど、ど、どうして?)
     ひどく混乱した。確かにルシフェルはジータの部長だ。しかし、接点は部長と一部下という関係以外一切ないのだ。組織図的には間に何人か人を挟んでおり、ほぼ関わりはない。
     その上、ルシフェルは誰に対しても、もちろんジータも例外なく、常に冷静沈着で論理的でまるで機械のように事務的だ。つまり、付き合っているなど、勘違いの余地すらない。
    「な、何を言っているんですか!? 全然、そんな事実ないですよ!」
    「?」
     今度はベリアルが首を傾げる。
    「おかしいなぁ……。君に今度プロポーズする、妻が部下になるのはコンプライアンス的に良くないから、自分が会社を辞めるって言ってたんだが」
    「ないです、絶対にないです! 恐らく別の人ですよ!」
     誤解されては困る。強く否定する。
    「しかし、部下のジータと言っていたんだが。君以外にもジータがいるのか?」
     ベリアルも腑に落ちないのか首を傾げる。
    「それはわかりませんが、完全な人違いです。私は部長とそういう間柄ではないです。本当に」
    「そうか……貴重な時間を使わせて悪かったね」
     全く身に覚えのないことで、変なことを任されるところだった。わかってもらえてよかったと安堵のため息をついた。
     
     自席に戻ったが、ジータの頭は先程交わした会話でいっぱいだった。
    (誤解はとけて良かったけど、部長、仕事やめちゃうのか)
     とりあえず、謎に恋人だと思われていた誤解は解けてよかったが、次はルシフェルが仕事を辞めるかもしれないという事実について、考えを巡らせ始めた。
    (確かに、部長は真面目みたいだから、部下と結婚するなら辞めちゃいそうだな)
     彼のことは詳しくは知らない。顔を直接合わせたのもジータの記憶では一度だけ。ジータがこの部署に配属されたとき、同じく配属された新人と直属の上司に連れられ挨拶に来たときだ。思ったより若く、整った美しい容姿であることに、流石に顔には出さなかったが驚いたことをよく覚えている。月並みの歓迎の言葉を口にしてくれたが、あまり表情は変わらない。冷たいというより、威厳のある人だと感じた。直接顔を合わせたのはその一回のみ。部の方針説明会などで話している姿を一方的に見たことはあるが、直接の関わりはない。
     聞いた話によると、ルシフェルはとても真面目で、そして恐ろしいほどに優秀らしい。いくつかの部署の部長を兼任しているほどだ。仕事はいつも正確で完璧だという。
     そうなると、確かにベリアルが止めるのも無理はない。ルシフェルが抜けた穴は大きすぎるのだろう。
    (その部長は、誰か部下と付き合ってるってことだよね。全然気が付かなかったなぁ。噂でも聞いたことなかったし)
     ルシフェルは、いつも厳しそうな雰囲気をまとってはいるが、人間離れした美しい容姿をしているし、身長なんてジータと頭一個分以上違う。恐らく高いメーカーのオーダーメイドなのだろうスーツがよく似合っている。言われなければモデルと間違われる可能性だってあるくらい見た目がいい。
     見た目もいい、誠実で真面目、部長という肩書もあり、収入も約束されている、しかも若い、となれば女性社員の間では恋愛やら結婚の噂が出てくる。ジータの聞いた話だと、独身ではあるが仕事が忙しく恋人はいなさそう、とのことだった。そして、告白して振られた、という話をよく耳にする。だからだろうか、完璧な自分にふさわしい完璧な人を求めているのだろう、そんな噂さえあった。
    (とにかくその彼女さんが、部長を止められるといいなぁ……)
     自分には終わったことだ。漠然とそんなことを思った。
     
     それは翌日のことだ。
    「ジータ、ちょっといいかい?」
    「……」
     出社し、給茶機からお気に入りのマグカップにお茶を注いで戻ると、ベリアルがいた。今日は自席にまでやってきたらしい。
    「ジータ……何かあったの?」
     隣の席の先輩も何事かとこっそりとジータに声をかける。しかし、ジータは検討がついていた。きっと昨日のことだ。
    「大丈夫です。あまり言えないことですけれど、業務に関係ないことなので、心配しないでください」
    「あぁ、すぐ返すから少し借りるよ」
     そして、また空いている個室で話を始める。
    「昨日のことですか?」
    「あぁ。やっぱり君しかいないんだよ……ルシフェルに聞いても君だと言うし……」
    「え……」
     何が起こっているのかわけがわからない。
    「オレもわけがわからない」
     ジータの顔にそれが出ていたのか、ベリアルもそう言いため息をつく。
    「えっと……証拠……にはならないかもしれませんが、私の携帯にルシフェル部長の連絡先があるか検索してみてください」
     ジータは携帯のロックを解除しアドレス帳を開いてベリアルに手渡す。
    「……確かに無い」
     画面を操作したベリアルはそう言い携帯をジータに返した。
    「一体どういうことなんだ」
     ベリアルはいつも飄々としているが、珍しく困った表情でため息をついていた。
    「……わからないです。全然わからないです。本当にわけがわからないです」
    「まいったな」
    (こうなったら、勘違いですって、部長から言ってもらうのがいいかも)
     きっとベリアルを介するからわけがわからなくなるのだ。ジータはそう思った。
    「じゃあ、ルシフェル部長と三人で話しましょう。そうすれば私は間違いってわかりますよね?」
     正直気は重い。目の前のベリアルはなんとなく話を聞いてくれそうな雰囲気はあるが、ルシフェルはなんだか固そうだ。しかも、色恋沙汰というのがなんとも言えない気分でもある。しかし、誤解されたままでは困るのも事実だ。
     無事に終わったらご褒美に美味しいものをたくさん食べようと心に決め腹をくくった。
     
    「疲れた顔してるけど大丈夫だった?」
    「まぁ……はい……」
     先輩は心配そうに声をかけてきた。
    「何かできそうなことがあったら相談してね」
    「はい。……もしかしたら、そのうち笑い話として話せるようになるかもしれないので、そのときは聞いてください」
     苦笑いを浮かべ仕事に戻る。
     しばらくするとベリアルからメールがきた。
    「すまない、アイツの予定、朝から晩までびっしりで予定を入れられそうにない。おごるから定時後、飯でも食いながらどうだい?」
    「……」
     めちゃくちゃ気が重い。会議室でさくっと話して終わると思いきや、どうして部長二人とご飯を食べながらそんなことを話さなくてはならないのか。どんな拷問だ。
     ただ、ベリアルの言うとおり、ルシフェルの空いた穴は大きすぎる。下っ端のジータにはあまり影響ないかもしれないが、上の方は誰を後任とするかで大騒ぎになりそうだ。早く恋人を見つけて引き止めたい気持ちもわからなくはない。
    「先輩」
    「ん、どうした?」
    「そろそろ、年度も変わるので、組織改編の時期かと思いますけれど、ルシフェル部長が偉くなってもっと上に行って部長が変わるとか、そういうこともあるんでしょうかね」
     理由は言えない。だから、遠回しにそう聞いてみた。
    「そうだねぇ、今のところ聞いてないけれど、そうなったら大変だろうね。ルシフェル部長、仕事できすぎて部署何個も掛け持ちしてるから、丸々引き継げるほどの実力ある人いないんじゃないかな……。私達も、船頭の舵取りが悪いと影響受けるだろうし、だから、そういう場合もっと早くオープンにして、その後のこと考えると思うなぁ」
     とりあえず、何としても引き止めなければまずいことはよくわかった。早く恋人を見つけなくては。
     
     夕方あたりになると、またベリアルからメールが届いた。今日の待ち合わせ場所と時間だ。オシャレなイタリアンのお店らしい。ジータの行ったことのないような大人の雰囲気のお店だ。
     仕事を済ませ、お店に向かうと、既にベリアルは来ていた。
    「お、お疲れさまです」
    「お疲れ様。ルシフェルなんだが、帰り際に急な仕事が入ったらしく少しだけ遅れるらしい。先になにか食べていよう」
    「あ、はい」
    「アルコールは? イケるタイプかな?」
    「程々であれば大丈夫です」
    「ならよかった。あぁ、ここの飯はなんでもイケるんだが、ピザなんてどうだい? トロトロに溶けた濃厚なチーズが絶品だ」
    「美味しそうですね」
    「よし、頼もう。あとは、ピザが来るまでつまめそうなものでも……」
     そして、メニュー表を開き、食事を選び始めた。
     
     とりあえずベリアルは気さくで話しやすいタイプのようだ。変な沈黙が出てきたらどうしようと思っていたが、うまく場を繋いでくれている。
    (ルシフェル部長とは全然違うなぁ)
     ジータの知るルシフェルとはタイプが真逆のようだ。そういえば、確か同期だと聞いたことがあった。それならば歳は近いのだろうが、性格は逆らしい。
     少し経つとサラダが到着し、三人分を取り分けて、ジータは自分の分のサラダに口をつけた。
    「うわっ……このサラダ美味しいです。ドレッシングが初めて食べた味です」
    「ここは自家製ドレッシングでシェフのこだわりらしいんだ。このサラダ目当てに通うやつもいるくらいさ」
     美味しい料理と楽しい会話。ジータは若干目的を忘れかけていたが。
    「……ど、どうして君が」
     サラダの美味しさに感激し、もう一口頬張ろうとしたとき、上から声が降ってきて我に返る。
    「あ、あぁ、部長! お疲れさまです!」
     もう一人の待ちあわせ相手のルシフェルだ。今テーブルに到着したらしい。サラダをすくったフォークを慌てて置き、立ち上がり頭を下げる。
    「ジータ、君はわざわざ来てくれたんだ、立つこともないし頭を下げることもない。座るといい」
     そう言われたので大人しく指示に従う。ちらりと失礼にならないようにルシフェルの顔を見ると、驚いた顔をしていた。いつも冷静であまり表情は変わらないため、こんな表情初めて見た。
    (そういえばそんなに接点ないけれど、私の顔覚えていてくれたのかな……)
     組織図としてはジータの上だが、接点はほぼない。そんな間柄だが、何百人といる部下のなか、覚えていてくれたらしい。
    「ルシフェルも座れよ。あ、何か飲み物頼もうか」
     ルシフェルはベリアルの横の席に腰掛ける。ベリアルはルシフェルにアルコールのメニュー表を手渡したが、ルシフェルはそれを見ることもなくジータの聞いたことのないような名前のアルコールを注文した。
    (よく一緒にくるのかな、同じ部長さん同士だし)
     そう考えると自分の場違い感がすごい。他の社員に見られでもしたら、何と思われるか少し怖い気がしてきた。
    「仕事、そんなに立て込んでたのか。まぁ、飯でも食ってリフレッシュして」
    「そのようなことではない。どうしてここにジータが」
     おっと、顔だけではなく名前まで知っているらしい。少しどきりとするが、驚くほど優秀だと聞いていたのでそのくらい当たり前なのかもしれない。
    「もう本題に入るのか? せっかちだな。もっと絡み合ってからの方が滑らかになって入りやすいと思ったんだが」
    「……」
     ルシフェルは無言で早く本題に入れと訴える。
    「まぁいい。どうも俺が間に入っても埒が明かないんでね。ルシフェルは彼女にプロポーズすると言ってたが、彼女は君と付き合ってるわけではない、そう言っている。明らかに矛盾している。どういうことなんだ?」
    「ベリアル、彼女にその話を……?」
    「だ、大丈夫です、誰にも言っていませんので!」
     ルシフェルが眉をしかめたので、ジータが先にそうフォローする。
    「あの……人違いですよね? 私とは付き合っているわけではないですよね?」
     そして、間髪入れず、本題の質問をぶつける。これで、はいと言ってくれればベリアルの誤解も解けるだろう。そう思っていたが。
    「……」
     ルシフェルが言葉を詰まらせる。
    「あの……」
     その沈黙が気まずくジータは顔色を窺うように声をかける。
    「あぁ、付き合っているわけではない。上司と部下という間柄でしかない」
     ジータの一番聞きたかったことをルシフェルの口から聞くことができた。ほっと胸を撫で下ろす。
    「でしょう?」
     ジータは思わずベリアルにそう言った。
    「確かに。じゃあ、付き合ってるのは別の子だった、ってことか」
    「いや。誰とも付き合っていない」
     ルシフェルはそう答える。そこでジータもベリアルも首を傾げる。
    「え、だって、結婚するんだろ? プロポーズするって」
    「結婚と付き合うはイコールではないと思うのだが」
    「た、確かにそうだが、普通は付き合ってそれからプロポーズだろ」
     ベリアルは半ば何言ってんだコイツ、みたいな態度でそう尋ねる。顔に出さないがジータも同様だ。
    「……もしかして」
     ベリアルは何かを察したように口にする。
    「付き合ってるわけじゃないが、目の前のジータにプロポーズしようとしていた……?」
    「え……」
     ジータはその大胆すぎる仮説に眉をしかめた。……のだが。
    「……あぁ」
     ルシフェルが頬を赤らめて小さく頷いた。
    「……」
    「嘘だろ」
     言葉も出ない、とはこういうことだ。何がなんだかわからない。頭の回転が追いつかない。ベリアルも流石に驚いたのか、表情がそのまま固まっている。
    「そ、その……」
     その沈黙を破ったのはルシフェルだ。軽く深呼吸をして一拍おく。そして。
    「私と、結婚してほしい……です」
     頬を赤らめ、恥ずかしそうにジータにそう告げてきた。語尾は消え入りそうなくらい小さい。
    「ずっとずっと、好きだった。私の妻になってほしい」
     まさか、この場で、しかもほぼ初対面にも関わらずプロポーズしてくるとは思わなかった。何が起こったかもよくわからず黙ってしまう。
    「あ……本当はもっとそれらしい雰囲気のときにプロポーズする予定だったのだが……!」
     ジータがプロポーズのシチュエーションに不満を抱いたと判断したのか、ルシフェルはそう取り繕うように訴える。
    「いやいやいや、そういうわけじゃなくて! あの、私、全然部長のこと知らないですし! 結婚とかちょっとびっくりしたな、って!」
    「これから知ってもらえるように努力しよう。何でも聞いて欲しい」
    「ルシフェル、待てよ……なんでそんな勝算のないプロポーズを……断られたらどうするつもりだったんだ?」
     混乱しているジータを助けてくれようとしたのか、ベリアルは間に入ってくれる。
    「至らぬ点を改善し、OKをもらえるまでプロポーズするつもりだ」
    「そ、そうか……」
     その頑な態度にベリアルは少し引き気味に曖昧に返事をする。
    (至らぬ点を改善してOKもらえるまで? ……なんかちょっと怖い……)
     諦めてほしいところではあったが、意志が固そうだ。
    「あの……部長、本気なんですか? 私にプロポーズしたいから仕事やめるって」
    「本気だ」
     冗談だという方に望みをかけたが、どうやら本気らしい。これは、ジータも、真剣に向き合わざるを得ない。
    「まずは……その……プロポーズは、今はごめんなさい。ごめんなさいというより、答えられないです。部長のこと、一人の男の人として、よく知らないので……」
     ジータはゆっくりと、言葉を紡ぐ。
    「あの、だから、まずは、結婚するしない、ではなくて、お互いを知れるような交流をしたいかな……って思います。もしかした、私だって、部長の思うような子じゃないかもしれないですし」
     さすがに、ごめんなさいの一刀両断は、仕事を辞める決意までした彼が可哀想に感じた。とは言え、イエスとも言い難い。これからお互いを知りたいというのは、いい落とし所のような気がした。
    「ジータ、私のことを知りたいと思ってもらえて嬉しい、あと、私は君のことをよく知った上で結婚したいと思ったから、期待外れということは絶対にないから安心してくれ」
     頬を赤らめられる。ベリアルは何だこいつみたいな目でルシフェルを見ている。
    「……だから、仕事、今はやめないで欲しいです」
    「上司の私と距離が近くなるのは……」
    「会社では社内恋愛は禁止されていないですし、その……私は、嫌じゃないので大丈夫です。それより、仕事、やめられる方が……嫌だな、って思います」
     とにかくこの人を繋ぎ止められるのは自分しかいない。ジータは一生懸命に丁寧に説得をする。
    「……わかった。君の意思を尊重する」
     少し考えた末、ルシフェルはそう結論付けてくれた。ジータもほっとため息をつく。
    「とりあえず引き止めることができてよかったよ」
     ベリアルは、安堵のため息を漏らした後、グラスのワインに口を付けた。
    「ルシフェルの仕事がオレになだれ込むところだった。オレの完璧なライフワークバランスが歪むのはごめんだ」
    「ベリアル、君はもう少し自分を信じた方がいい、私のやっていることくらい、君だって……」
    「だから、オレは、仕事より私生活を大事にしてるんだ」
     なんとなくベリアルがジータを強く説得しようとしていた理由が見えた気がした。
    (うまく利用された気がする)
     そういえば、ベリアルは人を使うのがうまいと聞いていた。すこしだけ、やられたと思った。
    「ジータ、プライベートの連絡先を交換しても?」
     そんなことをぼんやり思っていたら、ルシフェルからそう話を振られる。
    「あ、はい」
     先程の発言を踏まえると、ここで断るのもおかしいだろう。そのまま、流れで個人の連絡先を交換してしまった。
    「嬉しい……ジータの連絡先だ」
     ルシフェルは嬉しそうに自分の携帯を眺めている。
    「そ、そんなに嬉しいですか……?」
    「あぁ、とても。この携帯は壊れても宝物にしよう。……ところで、一日何回まで電話をしても?」
    「……緊急時だけですかね……」
     嬉しそうにそう尋ねるルシフェルにドン引きしながらも、そう返した。
    (私、もしかしたら、変な人と連絡先を交換してしまったかもしれない)
     
     とりあえず何か食べて何か話した気はしていたが、よく覚えていない。ぼんやりとしているうちにお開きになり、電車で帰ろうとしたらタクシーに乗せられ家まで送られた。
    (……そういえば、家の住所言ってなかったのに、部長知ってたなぁ……。考えたら怖くなりそうだから、考えないでおこう)
     そんなことをぼんやりと思いながらも、淡々と寝支度を終え布団に入ったがいまいち眠気が襲ってこない。
    (……好き? 私が? 何故?)
     頭に疑問ばかりが浮かぶ。
     とりあえず、好かれていることに衝撃を受けていた。これが接点のある人ならまだわかる。しかし相手は、ほぼ初対面と言っても過言ではない人だ。しかも、ハイスペックで女性には困らなそうなのに、どうして自分に惚れたのかわからない。
     更にあの展開。どうして結婚を申し込まれたのか全然わからない。付き合って欲しいではない、結婚して欲しいと言っていた。そして、このことからもわかるが、完璧な部長様は、恋愛に関してもそうだとは言いにくいようだ。
    (明日から……どうしよう)
     漠然とした不安と共にいつの間にか眠りについていた。
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