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    kanaria0197

    @kanaria0197

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    kanaria0197

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    今回恋愛描写は無しです。
    伯爵と地域は捏造の塊です。
    一郎、伯爵城に帰城する。(封神演義風)


    ※今回の特異点
    ・先天性女体化埋れ木一郎くん!
    ・キャラ崩壊しております。此処は遊園地。捏造多数。これは幻覚。
    ・伯爵や住んでる地域は全て幻覚です。
    ・CPはストアエ♀と伯アエ♀です。三世くんと一郎くん♀は友情です。


    (海辺の町で伯爵を目にし、殆どの記憶を取り戻した一郎は、一旦伯爵に会いに行くことにした。)
     魔界へと繋がる門を開いた先は、赤砂の砂漠だった。一寸先も見えぬ程、砂塵が吹き荒れている。門を潜るのを躊躇するメフィストを差し置いて、一郎は砂地に足を踏み入れた。久し振りと思うには余りに遠い。靴に砂が入るのも構わずに歩き出した。メフィストも「おい、待てよ」と悪態を吐きながらその後へと続く。
     視界が悪い中、一郎は迷いなくその建物を見付けた。しかし近付くにつれて一郎はその姿に眉を顰めた。宮殿の塀の周りを、茨が茂っている。以前はこんなものは無かった。しかしそこまでならば城の模様替えでもしたのだろうと気にしないが――その姿が異様過ぎた。アエシュマ時代の一郎によく似た幼子が、茨のそこかしこに絡まって死んでいる。思わず一郎の歩みが止まってしまった。
    「悪魔くん、これ……」
    「………………」
     隣を歩くメフィストが恐る恐るといった様に話し掛けた。一郎は話し掛けて欲しくなかった。これに一体どういう反応をすればいいのだろう。メフィストは一郎の心中を全く察する事無く「悪魔くんの小さい頃だよな」と言った。そこまで言われてしまったら認めるしか無い。この茨に絡まった死体達はそれ以外には見えなかった。一郎はぽつりと「帰りたい」と泣いた。実際涙は出なかったので、心の中で泣いた。メフィストは珍しく弱気な相棒を励まそうとばしばし背中を叩きながら「此処も一応お前の家みたいなもんだろっ! 立派なもんじゃないか」と言った。立派は立派だがその中に住む者は大層変わっている。

     玄関で砂を落として扉を潜ると、真っ白な大理石で出来た豪華な廊下が現れた。やたらと天井が高く、天井にはタイルが敷き詰められている。豪邸のような質感とは裏腹に、お城に有りそうな花瓶や絵画などの家具は殆ど存在しなかった。
     また迷いなく歩いて行く一郎を追い掛けるように後を付いていくと、曲がり角から小さなアエシュマが飛び出して来た。細い手足に、真っ白な肌、絹糸のような白銀の髪、そしてそれ一枚だけ着せられたような薄汚いボロ布のワンピース。小さなアエシュマは一郎の事を仲間だと思ったのか、ぴょんぴょん飛び跳ねて喜びを表し、一緒に行こうとばかりに玄関へと向かおうとした。しかし一郎達は伯爵に用があるので一緒に行くことは出来ない。小さなアエシュマはじれったそうに地団駄を踏んだ。そんな時、音も無くぬっ、と三人に影が差す。
    「こんなところに居たのか」
     一郎が振り向くと、山のように聳え立つ黒い布が見えた。伯爵である。
     伯爵は一郎とメフィスト、小さなアエシュマを三人の首根っこを引っ掴むと、暫く歩いた先にあった部屋の牢屋に閉じ込めた。やたらと広い部屋、しかしこの宮殿の部屋は皆こんなもんである。やたらと大きいが、部屋の隅っこを占領する大きめの水槽のようなサイズの牢屋。牢屋の中には沢山の小さなアエシュマがわいわいぎゃーぎゃー言いながら収まっていた。
    「じゃあ大人しくしてるんだぞ」
     それだけ言い残して伯爵は去って行った。一郎と一緒に小さなアエシュマ達の牢屋に取り残されたメフィストが叫んだ。
    「俺は見間違えようが無くないか!!??」
    「……………………」
     一郎は、小さなアエシュマ達と自身は大分サイズ感が違うので一目で分かってくれるかと思っていたが、相手はあの魔界一鈍感で、マイペースで、細かいことを気にしない伯爵である。この状況で分かってくれる筈が無かった。一郎はちょっとだけ落ち込んで体育座りした。
     そんな二人を気にする筈も無く、牢屋の小さなアエシュマ達はわいわいぎゃーぎゃー騒いでいる。一部の個体は一郎を同族だと思っているのか座り込んでいる一郎の肩を叩いたりして慰めてくれた。一郎が顔を上げてそれらを見ると、アエシュマ達は嬉しそうに飛び跳ねて、牢屋の向こうへと走って行ったり、くるくる回ったりした。自由過ぎる。
     一郎もいちいち悲しんでいるのが馬鹿らしくなってきた。この状況を知る為にアエシュマを一匹捕まえて尋問することにした。
    「さっきはどうやってあそこまで逃げてきたんだ」
     アエシュマは表情の変わらない顔でぱ、と顔を輝かせ、牢屋の檻の近くまで一郎達を引っ張ってきた。そして何をするかと思えば、鉄格子の隙間から、アエシュマはするんと抜け出した。アエシュマの体に対して、鉄格子の間隔が大き過ぎるのだ。
    「……あー、伯爵って、結構抜けてるんだな」
    「全く以て言い返せない……」
     一匹抜け出すと、他のアエシュマ達も外で遊びたくなったのかするすると抜け出して行った。そして牢屋は一郎とメフィストを残して空っぽになってしまった。一郎も取り敢えず試してみたが、頭がつっかえて出られない。一郎は再び体育座りして落ち込んだ。メフィストもシルクハットがつかえて出られ無さそうだ。メフィストは落ち込む一郎の隣にちょこんと座った。なんとも言えない空気が漂う。
     がちゃり。
     再び音がして、メフィストがそちらを見た。なんと伯爵である。伯爵は牢屋の様子を見てふうむと顎を撫でたが、気にせず扉を開いて「今日はこいつにするか」と一郎を引っ掴んで連れて行った。一郎は拗ねているので歩く気配がない。床に引き摺られている。メフィストは再び閉じ込められた牢屋の中で叫んだ。
    「あ、悪魔くーーん!!」

     伯爵が一郎を連れてきたのは、かつて一郎がアエシュマだった頃に住んでいた部屋だった。本棚も、石や道具を置いていた棚も、お気に入りの玩具もそのままだ。伯爵はアエシュマの本棚から一冊取り出すと、やる気がなくぐにゃぐにゃの一郎を自らの膝に座らせて、本を開いて読み聞かせを始めた。
    「ほら、アエシュマ。お前の気に入りの相対性理論だぞ」
    「……………………」
     子供に読み聞かせをするにはアンバランスな書籍を、伯爵はその低い声で朗読し始めた。伯爵の膝に寝っ転がったまんまの一郎はずうっと昔に読んだ本になど興味無く、上を向いた時に視界に入った伯爵のお面が気になった。伯爵は古い、鯨類の頭蓋骨でその素顔を隠していた。その中身が気になって手を伸ばした。
    「今日のアエシュマは好奇心旺盛だな」
     伸ばした手は伯爵の手によって遮られた。今更伯爵の手が三本生えようと四本生えようと驚くことは無い。
    「しかしこの中身を見せてやる事は出来ない。昔、アエシュマはここを見て、ひっくり返ったからな」
     そんな事あっただろうか。一郎は首を捻ったが、その奥にあるものは思い出せない。伯爵はカタカタと小刻みに頭を揺らして音も無く笑うと、「そうか、飽きたんだな」と一郎の両脇を掴んで立ち上がった。
    「食事にしよう」
     伯爵はそう行って一郎を抱いたまま部屋から出て行った。
     見慣れた大きな食堂。しかしこの部屋が使われた記憶は少ない。伯爵は実験に没頭し始めると一週間は部屋から出て来ず、自由主義なストロファイアもわざわざ食堂まで行って食事を持ってくることは無かった。大体がアエシュマの為に誂えられた食料庫に籠もって、樽や箱から食材をつまみ食いしていたからだ。
     テーブルの上には、大きなお皿が一つ。干からびた葉っぱが載っていた。皿の前にある椅子に一郎を座らせると、自らは端の席に座った。一郎は干からびた葉っぱをじっと見詰めた後、伯爵を見た。相変わらず、何を考えているか分からない。伯爵はカタカタと頭蓋骨を揺らした。
    「本物のアエシュマならば、食べる筈だ。食べなさい」
     ぞっ、とするほどの威圧感。知らぬ内に、汗がつう、と額を流れた。
     命令に従うようにという脳の通告を受けて、テーブルの上の皿を見る。枯れている。
    「……………………」
     葉っぱを一枚、手に取った。空いた穴から、毛虫がこんにちはした。
     一郎は摘んでいた葉っぱを皿に叩き付けると、椅子から飛び降りて伯爵の脛を蹴った。びくともしない。伯爵はゆっくりと一郎を見る。
    「……アエシュマ?」
    「……っ、……っ!!」
     一郎は重圧感と嫌悪感でおかしくなりそうだった。けれど、伯爵は昔から重圧感でやり過ごす事があった為、一郎も必死に堪えた。涙はちょっとだけ出た。
     伯爵の手が、一郎の頭を掴もうとする。一郎はそれに恐怖を覚えて、その下を潜り、伯爵の足元のローブの中へと飛び込んだ。飛び込んだ後で失策に気付く。昔は怖い目に遭った時、よく伯爵の足の間に入り込んでいた。それが今顕れてしまったらしい。しかも図体が大きくなったのでもう伯爵の足の間に入り切らない。一郎は泣きそうだった。震えながら泣いていた。
     伯爵はその間微動だにしなかった。そして暫くして、声が降ってきた。
    「今日のアエシュマは……なんだかいつもより大きく見えるな」
     今気付いたのかよ!!

     伯爵の書斎にて、一冊の分厚い本を受け取った一郎は、伯爵の脛を蹴り続けた。伯爵はそれに微動だにしない。一際強く踏みつけてみるが、逆に自分の足が痛くなっただけだった。どんなに大きくなってもこの父親には勝てる気がしなかった。
    「ふふ、今日のアエシュマは本当に、本物のアエシュマに似ている」
     この鈍感さにも太刀打ち出来る気がしなかった。
    「日頃の実験の成果が出たかな」
     何してんだこいつ。
     そういえば聞きたいことが沢山あった。城の城壁ににあった茨は何だとか、あの一郎の幼少期によく似た子供たちは何なのか、とか。元々顔だけ見せて暫く向こうに居ることを伝えに来ただけなのに、伯爵がトンチキな所為で予定が狂ってしまった。
    「古代魔界語の本だが、読めるか」
     大昔、ストロファイアに教えてもらった為、概略くらいは読める。一郎はふん、と鼻を啜った。
    「落書きしちゃ駄目だぞ」
     一郎は変わらずその脛を蹴り続けた。伯爵は嬉しそうに、頭蓋骨をカタカタと揺らした。そして、ロッキングチェアに座って、一郎を膝に乗せた。一郎は顰め面のまま、伯爵から受け取った本を開いた。大昔の魔術概論が書かれているそれを、一郎はじっくりと読んでいく。落ちることのない日が、窓から二人を照らす。
     あの頃に、戻ったようだった。
     陽光に照らされて輝く砂っぽい髪も、古い本を開いて静かに頁を捲る音も。伯爵はそれで漸く、息を落ち着けたのだった。
     どれくらいの時間が経ったのだろう。砂塵が吹き荒れて止むまでの長い時間だったかもしれないし、果実をもぎ取る程の短い時間かもしれなかった。一郎は読み終えた本を閉じると、伯爵の膝の上から降りた。
    「伯爵」
     くるりと伯爵の方を振り向くと、一郎は呼び慣れたその名を呼んだ。伯爵は、息を呑んだ、気がした。
    「ただいまと言うべきか、早く気付けと言うべきか」
     一郎はふぅ、と息を整えた。そして伯爵の方を真っ直ぐ見た。
    「もっと早く気付け馬鹿伯爵」
     そして持っていた分厚い本で伯爵の脳天を叩き落とした。伯爵の脳内でイマジナリーストロファイアが「あちゃあ、流石にこれは伯爵が悪いねー」と呆れた声で言った。
     暫くした後に伯爵が立ち上がり、一郎の顔をぺたぺたと触る。
    「……アエシュマ。本当にアエシュマか?」
    「あぁ。何だあの僕のクローン共は。何してる」
     伯爵は一郎の問いには答えず、続ける。未だ本物か信じられないらしい。
    「……アエシュマ。お前がアエシュマならば、この問いに答えられる筈だ」
    「……何だ」
     伯爵は一泊置いて、問う。
    「吾輩の名を答えてみよ」
     一郎はその問いに目を伏せ、そして伯爵を真っ直ぐ見た。
    「それはお前が喰った伯爵を冠する悪魔の名か? それともお前本来の名か?」
     伯爵はそれを聞いて、喜びにカタカタと鯨の頭蓋のお面を鳴らした。
    「あぁ――アエシュマ。愛しき我が子よ。お前が居ない時間はほんの百年にも満たなかったのに、どうも肋骨の間が空洞になった気がした。帰って来て嬉しい」
    「……ただいま、伯爵」
     伯爵の大きな手が、一郎の頭を柔らかく撫ぜた。

     庭でブロック石の上に焼き網を乗せたものを囲み、生っていた果物を焼きながら二人は話した。その後ろには小さなアエシュマ達が楽しそうに追いかけっこをしたり、舞う葉っぱを捕まえようとしたりしている。伯爵が焼き網の上の果物を転がした。
    「結局、この子供たちは何なんだ。伯爵が僕の形に拘るとは思わなかったが」
     じゅう、と香ばしい匂いが一郎の鼻腔を擽る。伯爵が再び焼き網の果物を弄った。
    「何年前だったか。ある鳥が知らせを持ってきてくれたのだ。別の地にて、お前の遺伝子を盗んだ者が、お前のクローンを大量に作って人肉食の悪魔に売り捌いていると」
    「……………………」
    「その農場を潰してクローンアエシュマ達を引き取ったのだが、その子等を見ているとどうにも、胸の内が騒ぐのだ。だから、本物のお前に似せようと育てた」
    「…………………………」
     最悪の連鎖である。遺伝子を盗むの意味すら分からない。『悪魔くん』の異名は轟いているのだから、そこから血や肉片でも持っていかれたのだろうか。
    「だが、クローンのアエシュマ達はお前に較べて随分と知能が低く、身体能力も低い。だから城の外に出て勝手に死なぬよう、絡め取る為の茨を植えたのだ」
    「……茨に絡みついて、何匹か死んでたが?」
    「ふむ。前回見に行ってからまだ九十日程しか経ってなかったが」
    「人間はあんな環境で放置されたら三日で死ぬわ馬鹿伯爵」
     一郎は再び伯爵の裾を蹴った。伯爵はいつものようにのんびりとそうか、と言っただけだった。

     焼き果物を土産に持たせた伯爵は、城の扉の前で別れを告げようとしている一郎とメフィストの倅に別れの言葉を口にした。
    「アエシュマ。いつもの鎌が無いようだが、代わりにこの石剣を持っていきなさい」
    「要らない」
     伯爵が持っていたのは一郎の身の丈程もある、硬い石を削り出したような長剣だった。一郎はもう、こんな大きな武器を振り回すような力は無いから、その親心は遠慮した。ただ持って帰るのも重いし。
     伯爵はそうか、と返事をすると、その理由に思い至ったのが、別のものを取り出した。
    「ではこれを持っていきなさい」
    「木の枝ぁ!!?」
     伯爵の出した物に、メフィストが突っ込んでくれた。やはりメフィストが居ないと場が締まらない。ツッコミ役は必要なのだ。伯爵はそうか、と返事をすると、ただの木の枝を自らの袖の中に隠した。いいのかそれで。
    「じゃあ、暫く帰らないから」
    「あぁ。しっかりやりなさい」
     そう言って一郎とメフィストは城を背にし、伯爵はそれを見送った。
     かくしてアエシュマの、一郎としての帰省は終わった。
     そして砂漠から離れ、千年王国研究所へと帰り着く。
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