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    ランワスD/Sユニバース

    ランワスD/Sユニバース それは教育のひとつだった。貴族として問題をいち早く見つけ、それを解決するための目。水族館に行き、大水槽の中で泳ぐ魚群を見る。両親が指を差すのは群れからはぐれた弱い一匹。
     「いいか、ああいう魚を見逃してはいけない。あの一匹から綻びが生まれるんだ」
     群れから遠く離れた一匹は同じ水槽中たった一匹で沈んでいく。幼きランスはその大きな鏡の前に立ち、落ちていく一匹から目が離せなかった。手を差し伸べることすらできない、この大きなガラス壁に苛立ちすら覚える。
     自身のダイナミクスがDomだと判明したとき、この出来事を思い出した。そして納得した。しっかり教育されたランスの目は随分と育ち、助けを求める人々を見つけることなど息をするのと同じ。見つけて、手を差し伸べる。満たされるのは確かだが、何か足りない。脳裏でたった一匹の魚が落ちている。
     
     ランスがその答えを見つけたのは泥に引き摺り落とされた闘技場であり、ワース・マドルが己の言葉で瞳の奥を溶かした、あの瞬間だった。

     しかしランスの目は育っていたのだ。次にワースを見つけたのは図書館で、あの夜とは違いどんな人々よりも自身の力で立ち、前を見据える姿に助けを求めるものはない。だからこそ、ランスの欲求がとぐろを巻く。
     平静を装って、その隣の席を手に入れた。走らせる羽ペンの音を聞きながら、彼の様子を伺った。そうしているうちに、ワースの瞳が此方を向いた。それはランスが頬杖をついてワースをじっと見つめていたときであり、ふたりの視線が交わり、ワースの瞳が驚いたように縮まった。
     「な、んだよ…」
     「いいや、お前こそ何だ」
     「ンでもねェよ」
     ランスの目は育っている。ワースの瞳の奥に喜びか隠れていることを見破ることなど簡単なのである。

     転機が訪れたのは肌寒くなってきた日。アドラ寮への帰路を歩んでいたランスは校門からふらりと歩いてくる影に気付いたのである。普段、貴族らしくシャンと背を立てて歩く彼は口元を押さえ真っ青な顔でふらりと歩いている。ランスはその姿を目掛けて一直線に歩き出した。
     「おい」
     「…あ、ああ。クラウン家の、か」
     「家名に拘るのはやめろ。ランスだ」
     「…そうかい」
     目を伏せ、頭が重そうに下がる。ランスはその様子に片目を細めた。ワースの口元を押さえる手に力が入る。それはどうみても精神的な異常を表していた。
     「何かあったのか」
     「…なンもねェよ。どけ。相手してらんねぇの」
     「ワース」
     「…!」
     初めて名前を呼んだ。それは正しかった。あの図書館で見せたように驚き縮まる瞳に映るのは僅かな喜び。それはワースの頭を引き上げ、安心したように、小さく息を吐く。
     やはり、サブドロップ寸前だったか。ほんの少し緊張の抜けたワースがランスの目を見ている。ランスはそのまま、目を合わせたまま彼に近付いた。普段より近くにある頬にゆっくり手を伸ばし、拒まれなかったから触れた。人肌なのに温かさの薄いワースの頬が息をするごとに熱を持つ。未だに驚き続けているワースの瞳は一度ぎゅっと瞑ると涙の膜と共に開いた。零れることはない。ただ、子供のように目元を赤くして涙に耐えるワースに、ランスはとうとうコマンドを零したのである。
     
     『来い』

     ひくん、とワースの顎が上がる。ワースの顔から一度表情が全て抜け落ちる。そしてじわじわと歓喜で埋まっていく。ランスはその様を見守り、そして手を広げたのだ。ここまで来い。たった一歩、傍によれば届く距離。
     ゆっくりとワースの身体が動き出す。油の差していないロボットのようにぎこちなく足だけ一歩踏み出し、そこに体重をのせる。ぐらりと揺れた身体はランスへとちゃんと辿り着き。ランスはしっかりと抱き留めた。
     
     「よく出来た。ワース。上手だ」
     どくん、どくんとその心臓が音を立てているのが見える。身体全部で息をし、熱を持つワースの身体はランスの腕のなかで確かにその強張りを解いたのだ。
     焦ってはいけない。ランスは暫くワースの目を見ながらその身体を抱き、ゆっくりと時を過ごした。そして落ち着いてきた頃合いでワースの部屋へと送り、彼をベッドで寝かせると片手を繋いだ。
     「俺とプレイをする気はないか」
     「は?」
     力の入った手の甲を親指で撫でる。それで力を抜くのだから、応えは貰ったようなものだが。
     「特定の相手はいるか?」
     「…いない」
     「なら問題ないな」
     「いや、止めろ。オレはプレイをしたことがない。」
     「コマンドは先ほど試しただろう。ちゃんと出来ている。問題ない」
     「問題ないって…よォ…」
     ワースの瞳がおずおずとランスを見上げる。そこに困惑と、それだけではない期待が存在しているのを見てランスのどこかがじわりと滲む。交わった視線に息を吐き、ランスは繋がっている手を強く握った。
     「なに。やることはさっきと一緒だ。深く考えなくていい。それより、今日は疲れただろう。寝てしまえ」
     「…おう」
     コマンドでもないのに、律儀に目を閉じる。ランスはその手をそっと放すと静かに寝息を立て始めたワースに背を向けた。
     楽しみだ。ああ、愉しみだ。ランスの頭のなかでじんと熱が灯る。かつてなく満たされているのが分かる。ワースの心音が、心地よい重みが、その体温がランスを満たして喜びが駆け巡る。ぎらついた瞳でランスは笑い声を上げた。嗚呼、こんなもの。プレイをしたらどうなってしまうのだろう。高らかに笑いながら己を塗り替える快楽を享受したのだ。

     その日はすぐにやってきた。相も変わらず、図書館で彼の羽ペンの音を聞きながら押しに押したのだ。いつがいい。今すぐでもいい。ここでやってもよい、と。ワースは己の顔を片手で覆うと喉で唸った。
     「うるせェぞ、餓鬼」
     「なら返事を返せ。会話は返事在りきだぞ」
     「はァ…いきなりプレイって言われてもなァ」
     「前も言ったがそこまで深く考えなくていい。最初からハードなコマンドを使う気はない」
     「当たり前だ、エロ餓鬼がよォ」
     「だから、ここでも良いと言っている」
     ランスがワースと視線を合わせる。頬を掻いたワースが溜息と共に肩を落とした。

     『来い』

     前と同じ。たった少しの間だ。机と机、椅子と椅子、すでに隣同士で並んだそれは半歩のスペースもない。
     ワースの身体がひくりと動き、中途半端に手が持ち上がる。ただ、足が動かなかった。ワースの瞳もきゅうと縮まる。それは安心からは程遠い、緊張と不安だ。ランスはすぐに宙ぶらりんの手を取った。しっかり手を繋いだまま、ワースの顎を掴んで焦点の合わない目を覗き込む。
     「…ワース。…ワース!」
     「ぅぁ」
     小さな声と共に詰めていた息が吐き出される。ワース自身が浅くなった息に驚き、あれ、と声を零した。
     「…何で」
     「どうした。大丈夫か」
     ワースの瞳は落ち着かない。ぐらぐらと揺れて、ランスの目から逃げるように下を向いた。
     「…なんで」
     ワースがもう一度言う。ランスはその身体を抱きしめ、冷えた手を両の手で握った。なんで。ランスも胸の中で呟いた。

    ***
     なんで、を解消するためランスもランスで動いていた。なんせ、今のアドラ寮は凄い。神覚者と神覚者と神覚者補佐である自身がいるのだ。任務中にそれとなく、こんなことの話をしてみたがあのレインでさえサブスペースを見たことはないと言う。
     なんせ、ランスの目は育っているのだ。あの少しでもコマンドで触れ合えばワースは全てを明け渡すと思っていた。だから、あの場でコマンドを実行できなかった理由も分からないのだ。ランスが鼻を鳴らす。胸に蓄積する滓が不快感ばかりを生む。満たされなかった欲求はその大きさ故、ランスを蝕んでいた。

    ***
     ランスは部屋の戸を叩く。開くことはせず、呻き声のような了承な声が聞こえ、ランスは堂々と中へ入ったのである。
     「なんだァ。わりィが今は…」
     「貴様、俺を避けてるな」
     「ェ」
     本の壁に挟まれて、ワースは此方を見た。思わず、と漏らした声が全てである。こいつは故意で図書館に来なくなった。それは、間違いなく、ランスに会わない為である。
     「いいじゃねェか。オレの勝手だろォ」
     「俺が構う。お前が居なければ図書館に行く意味はない」
     「は…」
     椅子から立ち上がることもできないワースを真上から見下ろす。ぎくりと背を震わせたワースは次いで唾を飲んだ。ランスはじっとそのまま見つめる。が、ワースがこちらに目を向けることはない。ランスの舌打ちが部屋に響いた。顔を青くしたワースが急いでランスを見上げるが遅い。目から光を失くしたランスはその手で本の山をなぎ倒した。固い本が重い音を鳴らして床へと散らばる。
     「おい、物に当たるんじゃねェよ!」
     「ワース。なぁ、わーす」
     大声を出したワースに聞こえるのはどろりと這う男の声だ。
     
     『言え、何故避ける。何故触れられないところへ逃げる』

     コマンド。ワースの喉がぎゅっと閉まる。ランスはそれを見た、けれどコマンドを撤回する気にはならなかった。この数日、耐えた。ランスは耐えた。羽ペンの音も、隣に座る姿も、触れるもののない空っぽの図書館で耐えたのだ。ランスの目は育っている、けれど彼はまだ成熟していない、ただの男である。だからコマンドをぶつけたのだ。少しでいい、お前からの信頼を寄越せ。あのときの快楽を、思い出させてくれ。もう手放せそうにないのだから。
     ワースの目がランスの目を捉える。意志を持つ目は震える息を隠しながらも声を出した。しっかりと成長した、大人の声だった。
    「怖かった。コマンドを実行できなくなったオレが怖かった。だから…、だから、逃げた。せめて、原因が思い当たるまで、逃げようと思った」
     目の前でワースが言い切った。最後の声は震えていて、それでも視線を交わしたまま言い切った。そのまま、ぐぅと口を引き結んだのを見てランスは自身の頭から熱が引いていくのが分かったのだ。クリアになる視界で、ワースの背が震えている。ランスはゆっくりとその手を伸ばした。拒まれるかもしれないと、恐々手を伸ばす。しかし、その手はワースの腕に触れ、背へと回った。温かな体温にふたりの息が弛んでいく。
     「ワース、…わーす」
     それだけでワースの瞳の奥が解けるものだからランスはその身体を強く抱きしめた。ありがとう、悪かったを繰り返しその額に唇で触れる。
     「流石だ、ワース。お前はいい子だ」
     「…ンなことない。オレはコマンド通り動けなかった」
     「今は出来たじゃないか。ちゃんと、言えただろう」
     ワースがその目尻を下げた。いつもより大人びた顔がへたくそに笑む。
     「もう一回、やってくれよォ。多分、答えることなら出来るんだわ」
     ぐらりと揺れたワースの瞳にランスはひとつ頷いた。その頭を撫で、頬に唇を押し当て、先ほどと同じコマンドを口にのせる。それは随分と甘やかに響いた。

     『言え。コマンド通りに動けなかった理由を、思い当たった原因を話せ』

     ワースはとろりとランスの目を見ていた。何か噛み締めたようにコマンドを受け取るとその口を慎重に開ける。必死にランスへ、目の前のランスへ訴える姿に心臓が音を立てた。

     だって、「正解している」のかが分からないのだ。ワースの世界は狭い。小さな頃、思ったこと感じたことは否定された。仲良くなった友達は自らの手で切ることになった。レアン寮で三番目の実力者になったことも、自身の中では間違いのない価値だったのに。突き付けられたのは「不正解」のレッテルだ。オレの価値観は間違っている。幼き頃から間違え続けている。教科書にないことは全部間違えた。そして、父親はこうするのだと示すのだ。自分とは正反対の正解を。ワースをそれを飲み込んで、覚えて、そうして生きればいい。
     なのに、ランス・クラウンはあの日、あの地下で、それを変えてしまった。自分で導き出した「努力」という方法を肯定した。可笑しい、それは親に矯正されていない純然たるワース自身の価値だったのだ。
     そんな状態で実家に戻れば、自己と正解の溝は深まるばかり。間違っているはずなのだ。だって父親があれほど言い聞かせるのだから。プレイ経験などない。コマンドは教科書に載っていない。父親にも指示されていない。じゃあ、どうすればいい。ランス・クラウンが中途半端に肯定した自己がどこまで許されたのかも分からずにワースを蝕む。合っているかもしれない、しかし、何時だって自分は間違える。そう、いつだってオレはまちがえる。
    「間違えるのは、怖い」
     それは、親の教えであり、ランスが肯定したワースの努力の根本だ。それだけが誰もが認める正しいもの。間違えるのは怖い。

     こわい。うわ言のように呟いて、ワースはその独白を終わらせた。こわい、こわいと。ランスの腕の中で打ち震える。目の奥で色が変わるのが分かる。ランスはワースを抱き留めながら己の目の奥でぎらついた光が漏れだすのを自覚した。
     嗚呼、こんなにもこの男を変えている。ランスの差し出した手はワースをかき乱し、その人生を浮かせては墜としそれでも手の届くところで訴える。
     ランスはワースのこめかみにキスをした。唇で吸いつきリップノイズをならし、もう一度吸いついた。満ちている。満ちていたい。だから、またワースに手を差し伸べる。口に溜まった唾を飲み込む。恍惚と笑みを浮かべたランス・クラウンはワースの耳へと言葉を吹き込んだ。

     「お前は知らない問題を解くときに解答を見てから解くのか?」
     それだけ言うとワースの頬を掴み目を合わせる。その優秀な頭で何かを気付きかけているワースは小さく首を横に振った。そうだろう。ランスの笑みは深まるばかりだ。
    「なら、同じだろう。ワースはコマンドに精一杯答えればいい。正答を目指さなくていい。何故なら、その可否は俺にしか分からないからだ」
    「…ランスにしか分からない」
    「そうだ。お前にも、お前の父親にも分かりやしない。俺だけが俺のコマンドの答えを持っている」

     ランスが一際綺麗に笑んだ。その喜びと快楽を隠さずにワースの前で口端を上げる。

     「答え合わせは必要だろう?」

     ワースの瞳にはランスの青い瞳が映っている。興奮でぎらつきながら深い青へと色彩を返る興奮しきった男の目がはっきりと映っている。それはワースの目の色と重なり、ふたりの色となりその網膜に浸食する。
     嗚呼、それだけじゃない。努力で自己を保ってきた男なのだ。ワースという男は、努力で塗り固めてきた男の正解としてランスはその脳内に己を埋め込むのだ。それが軸となりワースの思考が動く。コマンドを遂行する度、ワースはランスに染められていく。
     この男の頭脳に俺が居る!根幹を明け渡される快楽よ!これこそ、ランスが求めていた救済という支配!

     ともなれば、試したくなった。ワースの瞳のなかのランスが腕を大きく開いた。光を携え手を開く様は天使の絵によく似ていた。

     『来い』

     腕を伸ばせば辿り着く、たったそれだけの距離。ワースは瞬きも忘れてその姿に見惚れた。そして両手をランスへと伸ばした。ふらりと歩は進み近付き過ぎた身体が重なりワースの腕がランスの首へと巻きつくのだ。そのままワースの身体から力が抜けていく。全て明け渡した彼に残るのは多幸感で飽和した快楽のみ。喘ぐことも出来ず胸で息をするワースへ、ランスは口づけた。その身体ごと掻き抱いて、床に引き倒した。その身体に乗り上げてふたりに駆け巡る歓喜を繋げるように身体すらもさらけ出す。
     
     しかし、ランスは強欲なものでさっそくもう一つ、この艶かしい身体に刻みたくなった。いや、ワースの解答が見たかった。ワースの唇にランスの唇を重ね、ひとつのコマンドを呟く。
     互いの唇を震わせたそれにワースは頬を染め、それでもランスの眼前でシャツを託し上げ、その腹を見せた。


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