雨の日(屑鉄) いつの間にか向こうの空から押し寄せてきた灰色の雲にシュウは一旦足を止めた。
明るかった陽光も今は無く、この辺り一帯は一時の暗さを見せつける。
このまま駆け足で宿に戻るか、ここいらの建物で雨宿りを行うか。しかし考える時間も与えぬままに雨音が地面を叩き始めたので、仕方なくそこの軒下で雨宿りを行う事にする。
――時に雨は心を抉る。
己の未熟さが生んだあの事件を思い出してならない。もう少しやりようがあったのではないか、と自問する。
「雨が降ってきやがったな」
一人項垂れていると声をかけられた。
傘をさした赤髪の男。
「迎えにでもきてくれたのか」
「そう言いてぇ所だが、俺もちょっと買物してたんだよ」
トッシュの手には何本かの酒瓶が入った袋が。彼らしい買物だと一人笑う。
「入りな。しばらく雨やみそうにねぇよ。相合傘と洒落こもうぜ」
「いやしかし…」
そこそこ大きめの傘ではあるが、男の大人が二人も入るような傘ではなさそうだ。二人が無理して入れば必ずどちらも一部が濡れそうである。それを指摘するとトッシュはニヤリと笑い。
「構うもんか。雨も滴る良い男って言うだろう」
などと冗談めいた。
その笑みにつられて不思議と心が温かくなった。先程までの陰鬱とした気持ちは霧散している。
そういえばあの時もそうだった。「百人力」だと豪語する彼にどれだけ心が救われただろうか。
「俺も良い男だし滴ってみるか」
普段なら全く言わない冗談も驚くくらいにスラスラと口から出た。
灰色の世界もよく見れば、雨の雫が輝いて綺麗ではないか。