弍──狐の嫁入り。
暗闇の向こうに怪火が連なり揺れる様をいつしか人はそう呼ぶようになった。
「嫁って、マ……あ、いや、母さまを!?」
「違う。面白い方向に勘違うな、君は」
狐は大きな耳をぴくぴくと動かして、そんな訳無いだろうと丁寧に否定する。
「違うの?」
「違うに決まってるだろう。というか、僕が娶りにきたのは君だよ」
気づいてなかったのかと狐は初めて呆れ顔を見せた。
「え、やだ」
「やだじゃない。……忘れているようだから後で話すけど、これは神約に近いものだから、やだでは済まないよ」
「しんやくって何だよ?」
「神との約束事」
「アンタは狐だろ?」
「だから近いものだと言っただろ。つべこべと言うならこのまま拐うぞ小娘」
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