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    a_la_do

    荒堂です。
    pkmn擬人化と創作の民。
    現在、まほやくフィーバー期。
    みんなだいすき。若干、西師弟贔屓。

    twitter:@a_la_do(ほや:@ALD0x0
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    a_la_do

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    honey drop,melty time
    ヴァーレインとアリエスくんの話

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    ##うちよそ
    ##2021_Vt.day

    honey drop,melty time

    手元の書類を読み終えると、ヴァーレインは小さくふうと息をついた。探し物屋に依頼していた調査に関する中間報告書だ、難しい内容ではない。……ではないのだが、読み終えるまでは、いつも少し緊張をしてしまう。

    依頼したのは死んだ母親の形見。大きなアンティークのブローチだ。随分昔に手を離れ、それきり行方がわからない。手がかりは小さな写真一枚きり。金属細工の中央に埋め込まれた、まばゆく大きな石。それが高価なものなのか、それとも量産品のありふれたものなのか、それすらもわからない。
    そんなものをあてもなく探すことが、途方もないことである自覚は持っていた。目新しい報告があがることもそうあることではない、知っている。
    しかし、それは落胆や失望といった類とは違う感情だった。
    どこか予定調和的な、それでいて裏切られることを望むような期待感。夜空を見上げた瞬間に目の前を未知の飛行物体が横切ることを期待するような、他人が聞いたら笑ってしまうかもしれない、でも切実で純粋な幼い願いにも似ている。

    「よみおわった?」

    隣に座る少年は、ケーキを口に運びながらレイの様子を覗き見た。レイは表情を緩め、頷く。

    「うん。よんだ」
    「ごめんね、新しい情報はなにもなくて」

    ほんの少しむくれたように、少年はフォークの先を噛む。

    「でも、まだがんばるから」

    これはちゅーかんほーこくだし! と拳に力を入れてキラキラと目を光らせる。悔しさの中にも芯のある、力強い言葉だった。

    「うん、頼りにしてる。いつもありがとう」

    レイの返事を聞いて、少年は嬉しそうに目を細めた。
    特徴的な黒目の瞳はいつだってとても眩しくて、レイのお気に入りだ。朝一番に太陽を捕まえた太陽を蜂蜜に漬けたみたいな、あるいは蜜漬けのオレンジを満月の光にとかしたような、ちかちかと目を惹く甘い色をしている。

    「なぁに、じっとみて」

    食べたいなら自分のがあるでしょ、と少年はレイの目の前にあるガトーショコラの皿をフォークで指す。

    「ケーキはいいんだ。あ、もうひとつ食べる?」
    「食べる」
    「どうぞ」

    今日のおやつはレイの兄、エクトル謹製のガトーショコラだ。少年の訪問予定に合わせて、気を利かせて持ってきてくれたものだったが、無事、彼のお気に召したようだった。
    レイはサイドテーブルに乗った皿を隣にスライドさせる。それを受取るために、少年は屈んでソファから身を乗り出した。
    首にかかる柔らかな髪の下から、ケーキと同じ色をしたなめらかなうなじがのぞく。チョコレートの色をした肌に、ゆったり泡立てたホイップクリームのようなふわふわの白い髪。そこから覗く角の色合いは、ケーキに添えられたミントの飾りのようだ。

    「ちょ、なに!?」

    おもむろに耳の後ろあたりに鼻を突っ込むレイに、少年は驚いて身を竦める。

    「今、ケーキを食べてるんですけど!」
    「あ、おひさまの匂い」
    「人の話聞いてるぅ?」

    やだやだと身じろぎする少年に負け、レイは名残惜しそうに彼から離れた。

    「も〜、食べてるときに危ないでしょ」
    「ごめん…………おいしそうだなって思ったら、つい」
    「やっぱケーキ、食べたかったの? 食べる?」

    レイの譲ったケーキはすでに半分ほどまで減っている。その中から一口分をフォークに刺して、少年はレイに差し出した。が、レイはふるふると首を横に振る。

    「ケーキじゃなくて、アリエスが」
    「アリエスが? なに??」
    「おいしそうだなぁって。だからいい匂いするかなぁって思ったんだけど」

    チョコレートの匂いはしなかった、とレイはしょんぼり肩を落とす。少年は不思議そうに首を傾げた。が、次の瞬間、驚きの素早さでソファの端にぴょんと飛び退く。

    「アリエスのこと、食べちゃうつもりだったの?」
    「うーん……チョコレートの匂いがしたらそうしてたかも」
    「頭からバリバリ?」
    「柔らかそうな首からバリバリ」
    「やだぁ! アリエスはケーキじゃないよぉ」

    少年はけたけたと軽快に笑いながらも、ほんの少しこちらを警戒している。まさか本当にバリバリ食べるとは思ってはいないだろうが、突拍子もないレイの行動におやつタイムを邪魔されたくもないのだろう。
    レイは逃げてしまった可愛い子羊の髪を一度だけくしゃっと撫でると、部屋の隅に置かれたピアノの前に腰をかける。そして鍵盤に指をおき、自由気ままに弾き始めた。気の向くまま即興で演奏するのがレイは好きだ。もちろん楽譜も読めるのだが、指の滑るまま好き勝手に弾き散らかす方が自分の性にあっていると感じる。
    例えば、今感じていることだとか、目にしていることだとか。そういうものから刺激を受けると、鍵盤を触らずにはいられない。幼い頃からの習性だった。
    レイは、この少年の正直で素直な反応を好ましく思っていた。一緒にいると、指先がそわそわしてしまう。
    坂道を転がるサイコロのように、軽快に変化する表情。初々しくも芯の通った若い気性と相まって、会うたびに新鮮なメロディをレイの胸の中に湧きあがらせる。

    「それ、なんの曲? 」

    ケーキを食べ終えたのか、気づくと少年はレイの後ろから演奏を覗き込んでいた。レイは指を止めぬまま、いつものようにおっとり、答える。

    「おれにたべられちゃうかもって怯えながらガトーショコラを食べてるアリエスの曲」
    「アリエス、怯えてないもん」
    「ほんとうに? 」

    おもむろに演奏を止めると、レイは少年の顔に手を伸ばす。少年が後ろに退くのより早くその頰を挟み込むと、ぐいっとこちらに引き寄せて大きく口をあけてみせた。

    「がぉ。たべちゃうぞ」
    「やだー!! 」

    掴まれたままじたじたする少年を楽しげに見つめた後、その口元を指で拭う。大きなケーキの食べクズを回収して、そのまま少年の口の中に押しもどす。

    「ふふ。トッピング、ついてた」
    「わざとじゃないもん!」

    子供扱いして! とほっぺたを膨らませる少年の抗議も聞かず、レイはその脇腹を掴むと、そのままひょいと持ち上げる。

    「わーっ! 何するの!? 」

    突然宙に浮かんだ体に驚き、少年は足をばたばたさせる。けれど、言うほど嫌がるわけでもなく、いつもより高い視点を楽しんでいるようにも見えた。
    レイは自分の目線に少年の目線を揃える。
    窓の西陽、部屋の景色、目の前のレイ。全てを映しこんで、お気に入りの蜜色の目がこちらを見てる。

    もしも、音が、言葉が、目に見えるものなら、この目に映っている風景に一緒に溶かすことができるのに。
    想いを言葉にして、賑やかな君の世界に彩りを添えたら、君はどんな反応を示してくれるだろう?

    「きみがすきだよ」

    それはなんの衒いもなく心の奥から転げ落ちた、飾り気のない言葉だった。
    その瞬間、ふわっと体が軽くなって、口元が自然に緩んでしまう。

    「きみのこと、とってもだいすき」

    何故だか無性に嬉しくなって、抱えた少年ごとその場でくるりとターンする。まるで踊っているかのような気分だ。くるくると二度回り、鮮やかに着地。
    少年は、ぽかんとこちらを見上げる。
    その肩越しに、窓の外が赤く染まり始めているのが見えた。

    「たいへん。日が暮れてしまう」
    「うそ、帰らなきゃ!」

    妙な間が一転、お帰りのお支度ムードに変わる。二人ばたばたと慌ただしく玄関に向かった。
    ブーツに足をつっこみながら前のめりにドアの外に転げだした少年に、レイはくすりとほほえみかける。

    「気をつけて帰って。これはお土産」
    「お土産? 」
    「いつも頑張ってお仕事をして、おれと楽しい時間を過ごしてくれる君へ、労いと感謝の気持ち。気に入ってもらえるといいな」

    特に缶を、と言い添えて、レイは微笑む。少年は一瞬だけ紙袋に視線を落としたが、帰路を急がなければならないことを思い出し、我にかえる。

    「ありがとう!  また来るね!」
    「うん、また今度」

    ドアを閉め、レイは静かになった部屋を見渡す。
    訪れた静寂。
    一寸前の賑やかさから突き落とされたようで、戸惑い、玄関に鍵をかけることを躊躇する。

    と、突然、ドンと激しい衝撃がドアに走る。
    次の瞬間、そこが勢いよく開け放たれた。

    「わっ! なんでいるの!? 」
    「アリエスこそ」

    ドアの向こうに立っていたのは、いましがた帰ったはずの少年だった。慌てて走ってきたのだろう、細い肩がせわしなく上下している。

    「忘れ物? 取ってくるよ 」

    リビングに足を向けるレイ。その腕を、少年は咄嗟にぎゅっと掴む。驚いたレイは歩みを止める。少年は息を切らせながら、何かを伝えようと一語づつ発する。

    「待って、レイに、言い忘れて」
    「おれに?」

    少年は深く息を吐く。そして吐いたよりもゆっくりとたくさんの息を吸い込み、顔を上げる。乱れた呼吸を整えると、飴色の目を細めてにこりと微笑んだ。

    「アリエスも! レイと一緒に過ごすの、楽しくて大好き! 」

    それは沈んでいく西の太陽よりもずっと強くて明々しい笑顔。まばゆさに目が眩んでいるその間に、少年は再び玄関の外に走り出した。

    「それだけ! 今度こそ、またね! 」

    一瞬遅れ、レイもその背中を追おうと玄関の外側に身を乗り出す。けれどそれ以上追いかけることしなかった。
    小さな背中。後ろ手に大きく腕を振って駆けていく。彼の背中がエレベーターホール消えるまで、レイは静かに眺めていた。

    甘やかな時間の締めくくりとしてはいささか刺激の強い不意打ちを喰らい、レイは閉じた玄関のドアに寄りかかって笑った。
    こんな風に声をあげて笑ったのは、久しぶりだった。

    「うん。またね」

    それはもうあの少年には届かない返事ではあったけれど。そう遠くない未来にまた彼がここを訪れることを期待してやまない言葉だった。

    レイは台所に戻り、たっぷりの湯を沸かす。余りのケーキを切り分け、もっさり乗せた生クリームにミントを添えてよそ行きに。金色の飲み物には特上のはちみつをたっぷりとかして幸せになろう。

    ガトーショコラに淹れたての紅茶。

    物足りない日々、もしくは寂しい夜にはとろける時間を用意しよう。それから、転がるよう旋律を奏でるんだ。
    それらすべてから君を想うよ。
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