最後の晩餐に何が食べたいかって話になってさ、と黒尾が言い出した。普通ならねえだろと既にこの時点で夜久衛輔はちょっとうんざりしていた。黒尾ののろけはもう聞き飽きた。国境を、六時間の時差を越え、何故このような話を律儀に聞いているのか。
親子丼って答えたのよ、ちょうどお昼に食べたのが美味かったから、あのとろとろの真ん中に黄身だけ割ってあってらそれがまた濃厚でおいしくて、とどうでもいい情報をくれる。和風だしが、醤油が、半熟の卵が、白飯が恋しくなる話をつらつらと、デリカシーのない男だ。
そしたら研磨が言ったのよ…その親子丼、おれにちょっとちょうだいって! 俺もう舞い上がっちゃって……自分の顔を手で覆い、照れている黒尾の姿が目に浮かぶ。食欲が一気に減退した。
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