# 覆水 盆にかえることはないけれど◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
――――何を今更、という顔をしていたのかも知れない。
あの、ブラッドから。諸事情あってこの数年、随分と距離を置いていた実の兄から。
実の弟に抱くべきではない感情を、彼が抱えていた事情とは別にずっと持て余していたらしいことを、何の構えもなく聞かされた際、(懺悔のような告白を事前宣告する人間も、そうはいないだろうけれど)フェイスは自身の表情筋がどのような動きをしていたのか、全く思い出せない。
多少目を見開きはしたものの、目つきで何かを訴えたりだとか、衝動のまま口を開きそうになっただとか、そんな失態は犯していない――筈だ。恐らくは。生憎と、周囲には鏡も窓ガラスもなかったので正解はわからないけれど。
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