秘密基地 任務を終え、ユーリは帰途につこうとしていた。今日は見回りだけだったとはいえ日々気を配ることが多く少し疲れてしまう。
ふと彼を呼び止める声がする。同じ騎士団のマルスだ。
「あっユーリ!やっと見つけました〜…この近くにぜひ案内したい場所があるんです、ついてきてくれませんか?」
突然の誘いにユーリは少し驚いた。しかし彼のとっておきの場所らしい。なんだか素敵な予感がする。もちろんです、と快く承諾した。
「こっちです、この少し高い丘の…」
案内するマルスの後をついていく。すると小さめの丘が見えた。時々見回りにいくルートだったがこの場所は知らなかった。高い位置を飛んでいることが多かった故に見落としていたのかもしれない。小さな発見を逃さないマルスはすごい、とユーリは感心した。
「ここです!隣、どうぞ」
促されるままユーリは彼の隣に腰を下ろした。そよ風が涼しくて心地よい。しばらく目線を落としているとマルスが明るい声でこう言った。
「見てくださいユーリ!夕日がとっても綺麗ですよ!」
「___!!わぁ……」
彼にそう言われて初めて気づく。顔を上げると、息を呑むほど美しい茜色の空が広がっていた。見慣れた景色のはずなのに、こんなに心を動かされたのは生まれて初めてだった。
「きっと、マルスのおかげですね」
「えっ?」
マルスは目を丸くして不思議そうにユーリを見つめる。
「大事な親友のマルスと一緒だから、いつもの空がもっと美しく見えるんですよ」
普段なら照れくさくて言えないような言葉がなぜか自然にこぼれた。マルスは一瞬ポカンと口を開けたが、目をキラキラと輝かせて満面の笑顔を見せる。
「ユーリ…!ボクもです!親友のユーリと一緒だから、今とっても幸せです!」
無邪気にはしゃぐマルス。彼の純粋で明るくて、まっすぐなところがユーリは本当に大好きだった。
「そうだ!この場所、ボクたち二人の秘密の場所にしませんか?つまり、ユーリとボクの秘密基地です!」
秘密基地__幼い頃の憧れを想起させる響きだ。お互いもう子供ではないけれど、たまには童心に帰るのもいいのかもしれない。
「いいですよ。わたくしとマルスの秘密、ですね」
そう返事をするとユーリは口に人差し指を当て『ナイショ』のポーズをした。
いつの間にかかなりの時間が経っていた。騎士団は明日も早い。そろそろ部屋に戻らないと。
「帰りましょうか、ユーリ」
マルスは右手を差し出した。
「はい」
同時にその手を握り返す。こうして手を繋いで帰るのも何年振りだろうか。彼の大きくて頼もしい手に包まれるのはどこか安心する。ずっとこのままでいたい、とユーリは思った。口にするのはちょっぴり恥ずかしかったので、胸の内にしまっておいたけど。
夕暮れの小道を歩く。明日も明後日もその先も親友でいられたらいいな。そう思う二人であった。