ケーキが食べたい飛行青年「はぁぁ……」
ある日の昼下がり、ユーリは大きくため息をついた。
「?どうしたんですかユーリ、…もしかして何か大きな悩み事が…!?」
近くで報告書の整頓をしていた騎士団のメンバーであり親友のマルスが驚いて声をかける。
「いえ…違います…」
「えっじゃあ…具合でも悪…!?」
「いえ……全然違います…何か甘いものがものすご〜く食べたくて…!」
予想外の返答にマルスはぽかんとしている。確かに、ここ最近ユーリは魔物討伐に迷子探しに書物の片付けに…と激務でかなり疲れてそうであった。疲れた時に甘いものが食べたくなるということは天界の民でもよくあることだ。
「なるほど!!具合が悪い訳ではないんですね!!よかった!!…でも……甘いもの と言っても具体的にはどんなものが食べたいんですか…?」
ユーリは半分夢の中にいるようなぼんやりした声でこう答える。
「ふわっとしてて…しっとりしてるような…焼き菓子…ですかね……ケーキとか……」
彼は幼少期からかなりの甘党なのだ。故にケーキやクッキーといった甘い焼き菓子も大好物だ。
「ケーキ…ですか………あ!!」
マルスが何かを思い出したかのような大声を上げる。
「そういえばこれを買っておいたんでした!ホットケーキミックスです!…あの丸いのにクリームやイチゴが乗ってるホールケーキとはだいぶ違いますけどね…」
「マルス…ありがとうございます、でもこれ、工夫すればアレンジレシピも作れそうですよ。小さいカップケーキとかならできるんじゃないでしょうか…?」
ユーリは色々なことをよく知っている。自分の好きな甘いお菓子のことなら尚更詳しいのかもしれない。
「!!それとっても良いアイデアですね!2人で作ってみましょう!」
こうして、マルスとユーリの仲良し親友2人組は今日のおやつにカップケーキを作ることになった……
「材料は…えっと、ミックス200グラム…これ一袋で100グラムなので二袋ですね。あとは砂糖、バター、卵、牛乳…よし、よかった…全部揃ってます!」
「準備万端ですねマルス。まずはバターを常温に戻しましょう、そのままでは硬くて他の材料と混ざらないのでね。」
「そうなんですか?何分くらいかかりそう…ですか?」
「今日はかなり暖かい日なので…30分と少し、くらいで混ぜられる硬さになる感じでしょうか…」
「結構かかるんですね…あっ、そうだ!待ってる間に、ケーキの飾り付けに使えそうなもの、探してみます!」
アイデアマンのマルスはこういう素敵な思いつきが得意だ。…たまに、いや結構空回りしてるけど。
「あ!この星のお菓子なんてどうでしょうか?以前お土産にいただいたものなのですが…」
マルスが手にした小瓶の中には、赤、青、緑、黄、紫…と色とりどりの星形の砂糖菓子が詰め込まれていた。
「わぁ、これ良いですね…!ケーキの上に一粒乗せると可愛らしく仕上がりそうです。」
「あ、そうこうしてる間にバターが溶けてきましたね。準備しておいた砂糖と混ぜましょう、マルス、お願いしても…?」
「もちろんです!任せてください!」
ユーリの指示通りに、マルスはバターと砂糖をぐるぐると混ぜる。騎士をやっているだけあってかなり力が強いのでしっかり混ざったようだ。
「次は牛乳と卵を加え…あっ!」
グシャ!と音を立てて歪に卵が割れてしまった。
「す…すみません…昔からどうしても卵を割るのは不得手で…」
「気にすることないですよユーリ!殻は入ってなさそうなので大丈夫です!!」
マルスのポジティブさにはいつも励まされる。いい親友に恵まれたなぁ、とユーリは思った。
「ふふっ…マルス、ありがとうございます。ではここにミックスを入れてまた混ぜて………よし、こんな感じですかね。」
ふんわりもふりとしたカップケーキ生地の完成だ。
「後はこれを予熱したオーブンで焼いて…完成です!」
「おおっ…!これでついに美味しいカップケーキが…!!わ、もう甘い匂いが漂ってきました…!」
ふわりとキッチンが甘い香りに包まれる。
「お菓子、1人で作るのも良いですが…2人だともっと楽しくなりますね。」
ユーリは優しく微笑む。
「2人で作ったのはマルスとが初めてで…こんなに楽しいんですね、ふふっ、ありがとうございます、マルス!」
心の底から嬉しそうなユーリを見てマルスも嬉しさでいっぱいになった。こうしているうちにもうカップケーキが焼きあがったようだ。2人ともワクワクしながらオーブンの扉を開ける。
「わあ…!!」
焼きたての香ばしい香りが広がる。表面は少しこんがりと、そしてふんわりした美味しそうなカップケーキの完成だ。
「大成功ですね!!」
「マルスが手伝ってくれたおかげですよ」
「えへへ…」
焼きあがったカップケーキを少し冷ましてさっきの星のお菓子を一粒ずつ乗せていく。
「美味しそうに出来上がりましたね!でも…このまま2人だけで食べちゃうの、なんだかもったいなくないですか?」
マルスは提案する。
「そうですね、ぜひみなさんにもご馳走しましょう…!」
みんなを呼んできます!とマルスは勢いよくキッチンを飛び出した。その間にユーリは小さな紙製の箱と、金と紫の二色が織りなす高級感のあるリボンを取り出す。
「彼には……後でここに入れて渡しに行きましょう」
「なになに〜?2人でお菓子作ったんだって?早くオレにも分けてよ〜」
「そんなに焦らなくたって全員分あるので少し待っててください、もう…報告書はいつも遅れているのに…」
ごめんごめん〜と軽く返す、騎士仲間のこの青年はハルトマンという。
「みなさんお待たせしました!ボクとユーリで作ったとっておきのカップケーキです!!」
わあっ!と歓声があがる。可愛らしいサイズ感の小さなケーキに、カラフルな星形の砂糖菓子が飾られていた。
「2人とも器用ね〜!食べるのが勿体無いくらいかわいいけど、いただきま〜す!」
「ユーリさん!これとってもうんめ〜べ!!」
「本当に…!とっても美味しいわよユーリくん、マルスくん!特にこのてっぺんの砂糖菓子…?甘さの中に程よい酸っぱさがあって、いいアクセントね!」
「おお〜ふわっふわで美味しいね、コレ!こっちの緑のやつは少し独特の渋みがあって、これも面白いね」
仲間たちにも大好評のようだ。そして、ユーリはというと、いつもの任務の時よりも真剣な顔で無心でケーキをひたすら頬張っていた。
「あははっ!ユーリ、そんな慌てなくてもカップケーキは逃げないよ!」
ハルトマンに茶化されて少しムッとしたユーリは頬張っていたケーキを飲み込んでからこう言い返す。
「だって…あまりに美味しいので…仕方ないじゃないですか…!」
さすが甘党だね〜などとまた少しからかわれた。でも、みんなで食べる手作りのカップケーキはとてもとても美味しくて、楽しい時間を過ごせた。
素敵な仲間たちに恵まれて本当によかったな、としみじみ思うユーリであった。またみんなにお菓子、作ってあげたいな。