横たわる体、慣れ親しんだ赤毛からは不釣り合いな節くれ立った山羊の角が伸びている。琥珀の瞳は、怪しく光る螺旋状の線によって上書きされている。
「あぁ、う、あ……」
呻くような声は何かを伝えようとしているが、そのための知性すら奪われてしまったような哀しみを伝染させるかのように部屋にこだましている。
「わたしが残ってるんだ」
わたしだから分かる。そう付け足すのは南瓜頭のぬいぐるみを依り代にした、彼女の精神。
動かない顔から表情は読み取れず、声色もなく、ただ淡々として。
「理性も知性もわたしがもってきちゃったけど、それでも」
――人形みたいになった肉体にも残るものがある。
そう告げた彼女はこちらを光をも飲み込む穴のような目で見つめた。
「あなたは、戻れないわたしたちをどうする?」
助けを求めるようにも、全てを諦めたようにも、もしくはまだ可能性を探しているような声に問われて、小さな目眩を飲み込んだ。