甘え下手 籠絡しようと思えば彼は容易くできるのだろう。
そんなことを、甲斐甲斐しくわたしに世話をやく彼を見て思うのだ。いや、もうすでにされているのかも? なんて考えて任せっきりだったシャワー後のドライヤーを取り戻す。
「このくらいで貴女をどうにかできると思っていませんよ」
「それにしたって頼りすぎだなと思って」
まるでお母さんと子ども……アルジュナは男の人だからせめて兄と妹か。それではよくないと、考えを改める機会にはなった。
「全て任せて戴いても大丈夫ですよ」
清廉としているはずの声が、甘く響く。黒い瞳はどこか含みをもって揺蕩って。
「だめだよ、それじゃわたしじゃなくなっちゃう」
甘い誘惑だとに、つい身を任せたくなることもあるけれど、今はだめだと思う。
そうはっきり告げれば、分かっていましたとアルジュナはすんなり返事をした。
「ですがいつか」
見上げたわたしに落ちてくる甘い声、意外と彼は諦めが悪い。そう首元に這う指が言っている。
「身を任せても良い、と思ったときはどうかこのアルジュナに。後悔はさせませんから」
「わかった、ちゃんと呼ぶから応えてね」
えぇ、と上機嫌な唇が近付いて、すんなりキスを受け入れるわたしはやっぱりもう籠絡されているのかもしれない。