ちねけん 知念さんは、僕のことを好きだと言ってくれる。きっかけはきっとあの試合。僕の態度が知念さんは面白くて、それが興味深かったのだろう。一方、こちらから比嘉中テニス部である知念さんへの印象はあまり良くなくて。けど、好きと言ってくれた表情と気持ちはなんだか嬉しくて。僕は、彼の手を取った。
「葵は今日もちゅらかーぎーやっさー」
「もう分かってますよ! それ、可愛いって意味ですよね!」
可愛いよりかっこいいと言われたかったはずだ。本当は女の子にキャーキャー言われてモテたかった。けれど今の自分は彼の恋人で、テニス部が全国まで行ったからと興味を持って寄ってきてくれる女の子からの誘いには、ごめん、恋人がいるからと断っている。
こんな風にからかわれるなら、女の子と一緒にいた方が良かったかな。不貞腐れて頬を膨らませていると、知念さんが立ち止まった。最近買ったというスマホを手に、電話だ、と言う。道の端に寄ってスマホを耳に当てた。背が高すぎて電話の向こうが誰なのか声は聞こえてこないが、呼んでいる名前からして比嘉中の仲間だろう。自然体な笑顔から目が離せない。
「食堂が、沖縄料理のメニューを出してくれるって? あんしぇー、もうすぐ帰ろうねぇ」
その言葉に胸がザワついて、モヤモヤする。そりゃあもちろん、不貞腐れている自分といるより仲間たちのところにいた方が楽しいだろう。それに、彼のことだからデートに前向きでない剣太郎を長く拘束するのは悪いと思ったのかもしれない。けど――嫌だ。仲間たちのところに帰ってしまったら、僕は、彼のいる輪に入れなくなっちゃう。
思わず彼の服の裾を掴む。それに気づいた知念はハッとして剣太郎を見た。そして彼の手を裾から振りほどくと、その手をギュッと握り締める。
「わっさん。やっぱり、もう少し遅く帰るさぁ。慧くん、俺の分もラフテー食べていいよ」
そう言って、知念は通話を切る。しばしのあいだ沈黙が訪れて、剣太郎は知念の手を握り締める力を強めた。
「……知念さん、好きです」
泣きそうになりながら、言葉を紡ぐ。自覚してしまったこの気持ちを想うと、胸が苦しい。息が詰まる。突如された告白に、知念は大きく目を見開いた。
「葵が……、葵が、俺のこと……」
よっぽど感動したのか、知念の目からは滝のように涙が流れ始める。
「ちょ、ちょっと、大袈裟ですよ!」
こんなにも知念を追い詰めていたのだろうかと剣太郎はちょっぴり反省する。別に今までだって嫌いなわけではなかったのに。
「でも、良かったんですか。帰らなくて」
「葵が嫌そうだったから、早く切り上げようかと思ったんだけどねぇ。あんな事されたら、離してやれないさぁ」
知念は剣太郎の肩を抱き寄せる。彼の細長い体に身を委ねて、剣太郎は頬を赤らめた。