ぬいちね 無自覚惚気「新垣、相談があるんやしが……」
「どうしたの? ともくん」
帰り道、不知火は新垣にそう告げた。新垣の心中に不安が募る。ダブルスの戦略の話か、それともダブルスパートナー解消の話か……そんな予感が過ぎる程、不知火は深刻な顔をしていた。
「……知念の事なんやしが」
「知念先輩の?」
予想外に登場した名前にキョトンとしていると、新垣は手をわなわなと震わせた。
「付き合ってからというもの、前より俺の事おちょくる回数が増えて……! 人前でくっついてくるわ、会う度に頭掴んで来るわで大変なんばーよ!」
「はぁ……」
「なあ、これって恋人として尊重されてないんじゃないか」
ぐるんと顔をこちらに向けてくる不知火。新垣はふかーーく溜息を吐いて、白けた眼差しを幼馴染に向けた。
「ともくん、それ惚気って言うんだよ」
「え」
「心配して損した。それじゃまた明日ねー、ともくん」
「え、え、新垣」
逞しく成長した幼馴染に突き放され、不知火はその場で右往左往している事しか出来なかった。
「ふふ……、不知火は、本当にいい反応してくれるさぁ」
一方、平古場と共に下校した知念は、不知火のリアクションを思い出しながら嬉しそうにしていた。
「良かったなー」
自分が獲物にされていると知りながら、不知火は知念と付き合うことを選んだのだ。それなら平古場が何か言う筋合いはないし、そもそも言うつもりも元よりない。けれど、幼馴染が楽しそうなのは気分が良い方だ。平古場は心の底から、知念の喜びを祝福してやるのだった。