キスの不文律 テンプルに添えられた指が、透明なプラスチック越しの視界をクリアに変えていく。
自分以外の他者にそれを委ねる心許なさは、二度目で消えた。代わりに芽生えた逃げ出したくなるほどの羞恥心も、もう両の手では数えきれない数を重ねた今はない。
けれどテンプルをそっと持ち上げられて耳と鼻からわずかな重みが消えるそのとき、どうしても「今からすること」を強く意識してしまう。次に何が起こるのかを覚えてしまった真希の身体は、期待するように胸を高鳴らせてしまうのだ。
「──っ」
抜き去られたテンプルの代わりに耳の後ろを撫でる指と、遠ざかったレンズの代わりに近づいてくる瞳。青みがかったその色に反して、真希を真っ直ぐに捕らえた憂太の瞳はひどく熱い。けれど受け止める真希の瞳もまた、きっと彼と同じ熱に浮かされているのだろう。
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