重岳はそっと舌を出した。これは博と恋人として触れ合うようになってから覚えたものだった。重岳は長い年月を人々の間で過ごし、兄弟姉妹の中では一番と言っても誰も反対しないくらい人としての生活に馴染んでいた。しかし武を磨くのに重きを置いていたがために人との深い交わりというものには慣れていない。それは重岳だけの問題ではなく、周りの人々が重岳との間にどこか線を引いてしまうところがあったのも関係しているのだろうが。ともかく、重岳はドクターと恋人として付き合うようになって――これもまた紆余曲折あったのだが省略する――初めて、人が恋しい存在に対してどのように振る舞うのかを詳しく知ったのだ。
ドクターの手が重岳に添えられる。座り込んだ重岳を見下ろすドクターが体を曲げて重岳の舌を口内に迎え入れたので、重岳は尾の付け根がむず痒いように感じて尾の先をゆらりと揺らした。
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