末期の人 閨の空気は湿っていた。気だるく伸ばされた白い指は枝毛ばかりの髪を玩び、僅かに、微笑む気配がした。
――なんや、油断ならん人やさかいなあ
変に甘い声が薄闇に溶ける。
――年寄りだって色くらい好むさ
冗談のつもりで返せば、鈴が鳴るように笑われた。――ほんに、なあ。
暗がりのなかでさえ艶めく黒髪はしとどに広がり、眼が弧を描いている。戦場に立つというのに、疵ひとつない肌。乳房が揺れる。彼女は何者なのだろう。
唇が重なる。年甲斐もなく肩を引寄せる。散々放った欲が再び肚を燃やす。
――ええよ。元就様。一緒に、去にましょ。
屈託のない言葉の裏に、彼女のかなしみが映る。嗚呼、そうか。其処で漸く解った。
君は、最期の女だ。そうだね。