かなたより 自分には武しかない、詰らない人間だとか言っていても本当は誰よりも聡明な人だったことも、月を愛で花を慈しむ人だったことも、たかが草にも手を延べる優しい人だったこともあたしは知っている。けれど、それを知っているのはあたしだけで十分だから、このささやかな秘密は墓まで持って行こうと思っている。閻魔様にだって喋るものか。
ねえ、幸村様。
あなたは最期まで美しい人に焦がれて、ついぞそれを隠したまま露と消えてしまった。もしかしたら、ご自分の気持ちすら知らなかったのかもしれない。憐れな人。一途な人。あなたは前を向くことしかできなかった。そんなあなたの背だけを、あたしは追い掛けていた。
困ったような笑顔を、物憂げな眼差しを、凛と響く声を、まだ傍らに感じる。ねえ、幸村様。誰よりも綺麗な人。
お慕いして居ますと、告げては不可ない言葉を抱えたままなのです。
それなのにあなたに殉じることを許されなかったあたしは、あとどれだけ、さびしい道を歩かなければならないのでしょうか。