no title 犬は喜び庭駆け回る、というが。
「随分と落ち着かないね」
だって、とコタツ――彼が執務室でも使えるようにと私のために調整してくれたものだ――に入って、そわそわと身を捩らせていた彼が、私を見て唇を尖らせる。
「ドクターも見えるでしょ。雪が降っているんですよ、雪」
夜半から降り出した天からの白い祝福は、きっと今頃甲板を白く染めていることだろう。年の変わるこのタイミングで、狙い澄ましたようだった。私はどちらかといえば、コタツという存在を教えてくれた三角帽のフェリーんのようにこの中で丸くなることを好むが、彼はそうでもない。まだ誰のものでもない新雪に自分のものだという灯をつけて、その冷たさと清らかさを感じながら生命とこの季節を全力で謳歌したいと顔に書いてある。
ドクター、と彼が私を呼ぶ。
「せっかく君の発明品の性能を確かめているのに」
「役に立っているのはわかりますけど」
「今までで一番だよ。ずっとここにいたい」
ドクター、と先程よりもいささか強い声で私の名を呼ぶ。やれやれ、と私は肩を竦めた。
あまり待てばかりさせて彼の忍耐を試すのも酷だろう。とはいえ、コタツから出るのは冬の朝に毛布を跳ね除けてベッドから降りるよりも気力を必要とした。彼はと言えば、まさしく飛び出すといった様子できらきらと目を輝かせて立ち上がる。
「さ、行きましょうドクター!ロドスの甲板は広いですから、きっと楽しいですよ!」
「君はいつでも元気だなあ」
苦笑し、私の方へと差し出された手を取る。温かく、力強く握り返す手。これは彼にとって鎖だろうか、それともリードだろうか。
「ドクターも、絶対楽しいですよ!」
どちらも間違いだ、と私は信じている。これは互いを縛るものでも、主と従を決めるものではない。
「君と一緒なら、どこでも楽しいよ」
この手の中にあるものは信頼と。私はそう、名前を付けたい。