Time Limit 月の見えない薄曇りの夜。
目的地に着いた降谷は愛車を停めて、後ろ手にドアを閉めた。
煌々と灯る街灯の人工的な灯りを反射する降谷の髪は、それこそ月を零したような色をしていると、その姿を認めた者がいたならば、称したかもしれない。
そんな詩的な感傷など持ち合わせておらず、また意外に自身の容姿に無頓着な彼は、暗色の空にも停めたばかりの愛車にも目もくれず、ただ目的の部屋へと向かって扉を開く。
先日彼女に頼んだ解析の結果が出たと、連絡を受けたのはつい一時間ほど前のこと。
その時点で時刻は日付を超える直前だった。
まだまだ仕事中だった降谷も大概だが、彼女も相当に夜型だ。
エレベーターで七階へと上がり、チャイムを鳴らすも反応は無い。
1971