補佐普段でさえ戦闘団の指揮をしながらの戦闘など無茶でしかないことを当たり前のように実践する小さな上官も、不眠不休で、おまけに他からの増援も望めない状態で寄せ集めの師団規模魔導部隊の指揮はさすがに無理がたたっている。
吸血鬼のようだとも噂される白磁の肌もさすがに白を通り過ぎてくすんでいるように見える。気が付けば栄養補給の時間が過ぎていた。いつもシビアなほど時間管理に気を使っている中佐殿だが、さすがにそこまで気が回らなかったらしい。
「中佐殿、既定の時刻です」
「規定?」
すっと近寄って囁く。
「……航空増加食を」
魔導師はとかく大喰らいである。行動するにも思考するにもカロリー補給が大事だというのに、この方はさらに先陣を切って敵に飛び込むのだ。なおのこと消耗してしまう。
優秀過ぎて普段は忘れているが、体力面でも魔力面でも下から数えた方が早いのだ。もっと早く私が気付かねばならなかった。
「ああそうか、そうだったな。すまん、ヴァイス。助かった」
「いえ、お礼を言われるほどのことでは」
むしろ副長の役目が果たせていないと叱咤されても仕方がないところを礼を言われてしまうとますます自分のふがいなさが口惜しい。
そうしてほんの少し飛行速度を落とし、携帯糧食をかじっただけで再び先頭に立つ中佐殿を守るように追随する副官であるセレブリャコーフ中尉も、自分よりも随分と若いのだ。
兵役自体は自分の方が随分と長いはずなのに、いつまで経っても追いつける気がしない。本当に自分は中佐殿のお役に立てているのだろうか。きちんと副長の役目を果たせているのだろうか。
「任せたぞ、ヴァイス少佐」
そうしてまた自分の方が負荷の高い任務を引き受けてくださるのだ。
早く戦争が終わって中佐殿も、その副官も、本来の年齢に応じた生活ができればいいのにと願う反面、いつまでもこうして中佐殿と飛び続けたいと願うのもまた本心なのだ。
中佐殿に言えばまたこの戦闘狂だと叱られてしまうだろうが。