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    しゅん

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    140字+短文まとめ3 (二府)
    2029-2020年初出 再掲

    ##47

    短文まとめ 二府ゆびきり 2019

    「えろう心配性やなぁ」
     その微笑があまりに綺麗で慄然とした。
    「ほんまに? ちゃんと戻ってくるって」
    「指きりでもしよか。心配せんかて僕の帰るのはあんたの所以外あらへん。そうやろ?」
     藤の涼やかな瞳に揺るがぬ光が湛えられている。
     彼の腹は決まっている。
     
     最早、小指を絡めることしかできなかった。
     

    お題『迷子のお知らせ』 2019
      
    「せやからあっこで右やったんとちゃう」
    「そうやのうて、左にずうっと行くんが正解やってんわ」
     
     迷った原因は分からないが、如何せん暑い。
    「とりあえずそこで休もか。ほんま土地勘ないとかなんなぁ」
     
     空調の効きすぎた店内で困り顔を眺めながら、あんたとなら迷子のままでも構わへんやなんて世迷言を、コーヒーで流し込むことにした。


    ないしょばなし 2020.03.13

    「なぁ、秘密の話やねんけどな、」
     耳元で囁きかけてくる隣府の無邪気極まりない表情に、京都は呆れたよう態とらしく溜息をついてみせた。
    「ひみつ言うんやったら、自分の中に大事にしもうてはったら?」
     本当はどんな打ち明けごとでも嬉しい筈なのに、ついついこう返してしまう。だが、そんな京都の反応もなんのその、大阪は更に顔を近づける。
    「ええやん減るもんちゃうし。ちょお耳貸してぇな」
     そう言って大阪があんまり楽しそうに笑うから、つい、つられてしまった。


    さくら 2020.04.02

     桜並木の向こう空に、日がゆっくりと沈んでゆく。頭上に咲き誇る薄紅色の花弁が、淡く朱色に染められてゆく。
    「綺麗やなぁ」
     傍らの同行者は瞳を細めた。
    「ほんまやな」
     桜のように朱く照らされた見慣れた横顔が、やけに眩しく見えぽつり呟いた。
     夕陽より桜よりも他のなによりも心奪われ、彼から視線を逸らす事ができなかった。


    プリン 2020.04.16

    「ほら見て! めっちゃきれいに出来たで〜」
     何事かと思えば、大阪が持ってきた皿の上でプリンがふるふる震えている。
     どうやら、容器に入ったプリンが綺麗に皿に開けられたことを報告しにきたらしい。
     態々? まるで、子供や動物のようだ。
     ハイハイ、良かったなぁと適当にあしらうが、彼は全く気にしていないらしい。
    「ほい、これは京都の分」
     目の前の机上に皿を置くと、弾みでプリンはぷるんと揺れた。


    藤が舞う 2020.04.19

     風に吹かれ、日に透けたカーテンが柔らかに揺れ、畳に落ちた影が踊る。明かりをつけず、差し込む光だけを大阪はぼんやりと眺める。
     何の音のしない、静かな静かな昼下がり。こんな風に何にもせずに時を過ごす事は、彼にはとても珍しい。
     藤色のカーテンがふわりふわり、軽やかに揺らぐたび、「彼」の長い髪が陽の光に透けて風になびく姿が、ありありと思い出された。


    飛んでゆきたい 2020.05.16

    「このまま大空に飛んでけたら、気持ち良さそやなぁ」
     京都の執務室の窓から、澄んだ青空が大きく広がって見える。
    「ええなぁ、それ」
     京都の言葉に楽しげに頷いて、大阪は大きな掌を差し出す。
    「ほらほら、はよ掴まり! 一緒に飛んだら、きっともっと楽しいんとちゃう?」
    「ほんまに飛ぶつもりなん?」
     苦笑する。
    「そらそうやん。京都は行きたないん?」
     大阪はいたく真面目な顔で問いかけてくるから、ついついその手を取ってしまった。


    信頼のあかし 2020.01.25
     
     頼りにされているという自負も、心を砕いているという自覚もある。せやからこの役割を任せられるのは当然やともいえる。
     けど、お前にしか託せへん、やなんて、阿呆らしい。どうせ一緒に連れてってはくれへんくせに、なんで特別やみたいな顔を見せるん? なんでそんな、信頼しきった目で微笑みかけるん?

     ずるいひと

     決して共に修羅道を歩いてくれとは言わない。言うはずがない。ただ証立てとして在れ、と求めてくるのだ。残酷なまでに無自覚に無慈悲に。 

     憎らしいひと

     ほんのちょっとでも、共犯になってくれへんか、と望まれることを期待した僕は、ほんまに阿呆や。けどもし手を差し出してきたとして、その手を握り返すやろうか?
     広い背中が小さくなるのを眺めながら、託された紙切れのように薄い封筒はやけに重く、手の中に残った。


    よるべ 2020.10.17

    「どないしはったん」
    「……」
     むっつりと押し黙ったまま、大阪は京都の背中に抱きついて離れない。普段賑やかな分、妙に空気が静かに感じる。
     ふたりきりになると時折、大阪はこうなる。腰に回された手の上に手を重ねると、より強く抱きしめられた。京都は小さく口角を上げた。
    「ほんまに甘えん坊やなぁ」
     手にしていた本を傍らの机に置き、抱きつく太い腕を外すと振り返る。手を解かれ、大阪は寄る辺ない不安そうな表情をしていた。
    「おいで」
     両手を広げると、大阪はいつもより暗い榛色の瞳でじっと京都を見つめ、
     
     ポスッ
     
     その胸に顔を埋めるように、抱き付く。
     京都よりも体格のよい隣府が、この時ばかりは小さく見える。そっと頭を撫でると、胸元で小さく嗚咽が漏れた。
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