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    nlnlym

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     義勇さんはたいそう困っておりました。かの、弟弟子の、竈門炭治郎を見たり思ったりすると、どうにも胸の奥が締め上げられたように苦しくなって、全集中の呼吸も乱れて、しばしば寝付きが悪くなるからです。
     それなら竈門炭治郎のことを見たり思ったりしなければいいってのは道理なのですが、義勇さんは弟弟子思いの優しい兄弟子でした。それはできない頼みなのです。
     義勇さんは鬼殺の剣士ですから、具合が悪い理由にひとっつ心当たりがありました。もしかしたら、先日斬って捨てた鬼の血鬼術が悪さを働いてるんじゃあないかしら? 早速しのぶさんとこへ相談しようかと思いましたが、あいにく、しのぶさんは任務のため何日もお留守なのでした。
     そこで、義勇さんが漢方薬にでも頼ってみようかと街をてくてく歩いていますと、大通りから少し入ったところに細ぅい路地があるのを見つけました。はて、この街は何度も来たことかありましたけれど、こんな路はあったろうか? 義勇さんは不思議に思って、ちょいと路地を覗いてみることにしました。
     すると薄暗い路地の物陰に、ひとりのお婆さんがうずくまっているのを見つけました。お婆さんは顔色が優れないようで、義勇さんは思わず声をかけました。
    「もし、どうなさいました。ご気分がすぐれませんか」
     お婆さんはしわしわの顔で義勇さんを見上げると、丸い背中をいっそう丸くして、「もう何日も何も食べておりません。お侍さま、何か食べるものを恵んではくださいませんか」と言いました。義勇さんはすぐに近くのお店に行って鮭のおにぎりを買ってきますと、お婆さんへ差し上げます。温かいお茶もあげると、お婆さんはたいそう喜びました。
    「ああ、ありがとうございました。おかげでうんと元気になりました。ところで、お前さま、何か困ったことがあるようだけれど、よかったら婆に話してごらんなさい」
     義勇さんは近頃の具合が悪いのをすっかりお婆さんへ話してしまいました。すると、お婆さんは言ったのです。
    「それは呪いのひとつです。呪いを解くには心から愛する人に愛され、真実の愛のキスをするしかありません。けれど、じきに運が向いてきますから、安心なさいましね。この路を出て最初に出会った人が、きっとあなたを助けてくれますよ」
     お婆さんはそれだけ言うと、煙のようにいなくなってしまいました。さて、一体誰と口づけしたらいいんでしょう。義勇さんがほとほと困った顔で路地を出ると、ちょうどばったり、弟弟子の竈門炭治郎に出くわしました。しめたとばかりに、義勇さんは炭治郎をお屋敷に連れて帰ることにしました。

    「そういうわけだから、俺と真実の愛を育んで欲しい」
     義勇さんがいきさつを話すと、炭治郎は兄弟子の危機にさめざめと泣いて、それから胸を張って「もちろんです!」と請け負ったのです。
     さて、ふたりは真実の愛を育むため、当分義勇さんのお屋敷に一緒に暮らすことにしました。一緒にご飯を作って、食べて、同じ布団で眠りました。毎日毎日、お互いの良いところや好きなところをひとっつずつ伝え合いました。
    「そろそろ真実の愛は育ったろうか」
     そうして何日か経ったころ、義勇さんが言いました。炭治郎はどうかしら、と首を傾げながら、義勇さんの顔をじっと見つめます。すると義勇さんはやっぱり胸を締め付けられるように苦しがるので、炭治郎も胸の奥が締め付けられるような気持ちになりました。ああ、いけない。もしかしたら、呪いがうつったのかもしれません。
     炭治郎の顔色が優れないのを見ると、義勇さんはますます苦しがりました。なんてこと、もうゆっくりはしていられません。炭治郎は義勇さんの白いほっぺを包んで、とうとう口づけをしてみました。義勇さんはびっくりして青い目をまん丸にしていましたが、すぐ優しい顔になって、じっとしています。
     どのくらい経ったでしょう、しばらくしてふたりが離れると、義勇さんはすっかり健康になって、青かった顔が薔薇色に染まっていました。真実の愛は、ちゃあんと育っていたようです。それから驚くべきことに、炭治郎の胸の苦しいのも、すっかり楽になりました。
    「お前がいなくなると、いつまた同じ呪いにかかるかわからない。できたらずっと真実の愛を育んで行けたらと思うが、どうだろう」
    「義勇さん、奇遇ですが、俺も同じように思っていました。俺だって、あなたがいないと胸がとてつもなく痛いんです」
     こうして義勇さんと炭治郎は、真実の愛のキス、もとい、誓いのキスをして、もう二度と呪いに悩まされることなく末長く幸せに暮らしたのでした。
     めでたし、めでたし。
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