ゾアうさとネニィーク兄貴俺様はネニィーク。魔祓いを生業にしてる男。今は仕事を終えて近道の森を突き進んでいる。ガササッ!草むらが揺れる。んだぁ?
「おい!出てこい!」
「ぴょーん!」
「あ"?何この生物。きっしょ。ちゃらんぽらん前髪にウサミミ生えてる。しかもチビぃ」
近付いてくる兎耳を掴んで睨み付ける。ちゃらんぽらんと同じく口を大きく開けて笑っている。ギザ歯までそっくり。気に食わない。
「食べちゃいやんだぴょん」
「ざけんな。そんな悪食じゃないわボケ」
「お口わるわるちゃんだぴょんねー」
「あ"ぁ?」
ふざけきってるのもそっくり。耳を切り落としてやろうか。
「ネニィーク、痛いんだぴょん。俺は魔じゃないぴょん。キュートなウサギちゃんだぴょん」
「は?何で名前知ってんだよ。しかも、職業まで。何だテメェ」
「可愛いウサちゃんだって言ってるぴょん」
「そうじゃねぇわ!素性を晒せって言ってんだよ!」
「それはやぁん、恥ずかしいぴょん」
何もかもが似ているコイツに激しい苛立ちを覚えた俺は耳を強く引っ張った。腹立つ腹立つ腹立つぅ!
「びぇぇん。動物愛護団体さん助けてぴょん」
「本当に泣いてから言えや!」
拳を構えて顔面に一発食らわそうとしたらいつの間にか消えていた。クソッ、どうやって逃げやがった。遠くでゲタゲタと笑っているのが苛立ちを怒りに変える。
「争いに来たんじゃないのにだぴょん。何をそんなにカリカリしてるぴょん。ゾアがそんなに嫌いだぴょんか?」
ゾア。そう、ちゃらんぽらん前髪の愛称。マジでどこまで知ってんだこのクソ兎。
「ちゃらんぽらん前髪に対する感情?答えてやってもいい。腹割って話そうじゃねぇか。来いよ」
「怖いぴょーん。近付きたくないぴょん。でも、お口わるわるちゃんも性格わるわるちゃんもネニィークだから行くぴょん」
駆け寄ってきた所で首根っこを掴む。
「さて、俺様はネニィーク。知ってんだろ」
「もちもちぴょん。魔祓いのネニィーク。そこの魔祓いを受け付ける事務所の所長がリムニゾア。お前がちゃらんぽらん前髪なんて呼んでるゾアだぴょん」
「テメェは?」
「そうだぴょんねぇ。俺から言えるのはほぼゾアなのが俺。という所だぴょんねー」
「曖昧だな…」
「詳しくは言えないぴょん。魂の双子だとかクローンだとか好きに考察するぴょんよ」
「はん。訳分かんねぇ所まで似てら」
「職場を得る為にゾアを使ったぴょんよね。深入りしないという約束だったのにゾアの素性を探ろうとして酷い目にあったのも知ってるぴょんよ。酷い目の内容を言ってやってもいいぴょん」
「殺すぞ」
「そういう事ぴょん。俺もその類いぴょん」
あのちゃらんぽらんクソ前髪…。何考えてやがる。首を掴む力が強くなるのを感じる。
「やーめーるーんーだーぴょん。折れちゃうぴょん。死んだら責任とってもらうぴょんよ。それに殺しが嫌で魔祓いやってるのに手を汚したら同じムジナぴょんよー」
いちいち物言いが腹立つ兎だ。
「テメェは人間じゃねぇだろ」
「でも、血は流れてるウサちゃんだぴょん。その上とてもゾアに似てるウサちゃんだぴょん」
「…。」
怒りよりも呆れが勝ってクソ兎を放り投げた。
「優しくするぴょーん。魔祓いという人の為になる職業な上につよーい力持ってるのに台無しだぴょん」
「黙れやカス」
俺が魔祓いになったのは善行の為じゃねぇし人の為なんて高尚な理由なもんか。寧ろ、称賛してくるゴミ共を蹴り跳ばしたい。親父とは違う魔祓いになりてぇんだよ。世間にぐう聖呼ばわりされてる親父とは。
「やっぱりコンプレックスなんだぴょんねー」
「テメェ…人の心を読んでんじゃねぇ!ウサギパイにしてやる」
「悪食じゃないって言ってたぴょんに」
「黙れ!!!」
拳はむなしく空を切る。おちょくりやがって。あの時もそうだ。ちゃらんぽらん前髪は攻撃を全てかわして俺を見下してた。そして一言。
『傲るなら大人としての権利貸してあーげない』
思い出すと腸が煮えくり返る。あんな屈辱は初めてだった。俺が傲る?ざけんな。そんなに世間様舐めてねぇよ。あれはテスト。俺が利用するのに適してるか。それだけだっての。悔しかない負けたって…負けたってなぁ!
「ぴょーん。ネニィークは複雑ぴょんね」
「知ったような口を聞くな」
「話せって言ったり黙れって言ったりせわしないぴょーん」
「ムカつく」
「苛立たれても事実しか言ってないぴょん」
「…。」
いつもの流れだ。ちゃらんぽらん前髪と話しているうちに俺が呆れて黙る。ったく。正論だなんて思ってないし論破されたとも思ってないからな。クソが。
「ネニィーク、俺の目的話してやるぴょん」
「そういえばそうだ。何しに来やがった」
「パッパのお話聞かせてぴょん」
「…は?」
「ネニィークパッパのお話。ゾアに出来ない話というかゾアが突っ込まない話。深入りの部類に入るぴょんからね。俺なら良いんじゃないぴょん?」
「んだそれ…」
クソ兎は正座して話す。
「詭弁というかひねくれというかだぴょんがこうでもしないと約束破る事になるぴょん。逆に考えるとそこまでする程にゾアは己の事を話したくないという事になるぴょんね。それとゾアはあくまで対等にいたいんだぴょん。自身が認めるに足る存在とねだぴょん」
「はーん」
空気が変わった。シリアスな冷たく重苦しい空気。真剣でマジって事か。ふーん…。
「しゃあねぇ。話してやるよ。でもな…」
「ぴょぴょ?」
「どうせあのクソちゃらんぽらんミステリアスぶりたがり前髪に話すんだろ?意味ねぇじゃねぇか。何が対等だ」
「そこぴょーん。痛い所突くぴょんね。でも、此方にも切り札があるぴょん」
クソ兎はパーカーのポケットから折り畳みの鏡を取り出す。そして、俺に向けた。そこに映っているのは成人男。何一つおかしく…。
『大人としての権利貸してあーげない』『職場を得る為にゾアを使ったぴょんよね』…成人男が大人を頼る必要性ないじゃねぇか。
「そうだぴょーん。今のネニィークは"大人"だぴょん。俺がしてるのは交渉。条件を飲めば対等だぴょん。賢いネニィークなら分かったぴょんよね」
あぁ、そういう。…クソッ、勝てねぇな。
「あーあー!何処まで話せばいい!」
「話せる範囲で十分ぴょん。父親特有の匂いが嫌いだとか寝癖が悪くてムカつくとかそんなんでもいいぴょん」
「あくまで突っ込む気はないと?」
「"大人"のネニィークの判断に任せるって事ぴょん。自身で決められるぴょんよね」
「…。」
真綿で首を絞められる感覚がする。これが大人の責任。へぇ…。
「親父はぐう聖完璧超人。悩める者を救い。あらゆる魔を退ける。魔祓いってか祓魔師。そう、見習いの事を呼ぶ魔祓いじゃなくてキチンと認可を受けた祓魔師。実子の俺以外に弟子が掃いて捨てる程にいる。とことん人格者で実力も折り紙付き。よく知らんがお偉いさんが何度も訪ねてきた事もある。…弟子は勿論、俺にも優しくてたっぷり愛してくれたよ。俺が魔祓いになると言い出しても否定せず寧ろ喜んでくれた。力を正しく使ってくれるのは喜ばしいだなんてな。それと同時に正しくある為の教育受けたしな。結果?見りゃ分かんだろ」
「ぴょぴょ。性格わるわるちゃんのお口わるわるちゃんぴょんね。でも、間違ってはいない。やる事はやってるぴょん」
「…こんなんでもにこやかに笑いやがって。個性だもんな?はっ!」
「ネニィークは魔に飲まれない様に性格わるわるちゃんなんだぴょんよね。お口わるわるはオプションぴょん」
「あぁ、俺のやり方。…でも…でも…否定しろよ…何で肯定しやがんだ。親は!間違ったら!正すもんだろ!」
「正す必要がない間違いって事ぴょん。パッパの事を甘々ちゃんちゃんだと思ってるだろうけどそうじゃないと思うぴょんよ」
「説教すんのか?」
「ウサギさんはそんな事しないぴょーん。事実を叩き付けはするけどぴょん」
「ほう…聞かせろよ」
「ネニィークは臆病かつ恥ずかしがり屋の可愛い子って事ぴょん」
顔が熱くなるのを感じる。か、可愛いだと?馬鹿言うな!それに臆病だと?恥ずかしがり屋だと?このクソ兎ぃ。
「歯軋り凄いぴょんね。怖いぴょーん。俺は事実を述べただけぴょんね。ぴょぴょ」
「笑うな!ぶっ殺すぞ!」
拳を握り締める。でも、何度も逃げられて不発に終わっている事を思い出して力を抜く。落ち着け俺。
「少しは心当たりあるぴょんねー。ぴょぴょー」
やっぱ殺す。麻痺札を取り出して投げ付けるが受け止められた。
「魔じゃないから何だかんだ通じないぴょん。そうでなくても受け止めるけどねぴょん」
「クソ兎ぃ…」
「落ち着くぴょん。ゾアに言われないだけマシぴょん」
「…一理ある」
『かわいーネニィークたん☆』
…想像したら凄まじい鳥肌立ったわ。きっしょきっしょきっしょ!
「ネニィークが可愛い格好嫌ったり同年代嫌ったりするのはそういう心理ぴょん。あとパーフェクトパッパをどうしても好きになれないとかねぴょん。キャー思春期。逆にゾアにトゲトゲしても何とも思わないのは対等だと感じてる証拠ぴょん」
「ほーん」
「ゾアは心から可愛いなんて言わないし、ネニィークが心地の良いと思う距離感を保つぴょん。今は見た目だけ大人だけど本当のネニィークは…」
もう一度鏡を見ると映っているのはツインテの小娘。俺…いや、あたし。
「ぴょぴょ。ネニィークの事を知れて良かったぴょん。俺の役目はおしまい。バイバイぴょん」
―
んー?寝てた?あー変な夢。何か知らないけど暫くは兎見たくない。キレそう。うっわ、椅子で寝るとかあり得ないから。
「おはネニ☆」
「…はぁ?」
クソちゃらんぽらん前髪に無意識で拳を叩き込んでいた。受け止められたけど。
「おい、ゴミカス前髪」
「はいはい」
「…あたし今のままでいい?」
「イエース☆おやぁ、しおらしい。何か悪いものでも食べた?」
「ぶっ殺す」
あたしはへたばって地面に突っ伏すまでクソちゃらんぽらん前髪に拳を繰り出していた。