お姉様、伴侶、私(わたくし)深夜二時。大抵の人々が眠っている時間に電話が掛かってきました。私は事務作業をこなしており、電話対応をしたのはお姉様でした。
「はいはい、此方レディンメ。うん、はい、把握。うちに任せておいて。うん、キチンと書類書いてもらわないとだから余裕出来たら事務所来てね。あ、家に向かおうか?兎に角、落ち着いてからだね。じゃ」
お姉様が電話を切る。私(わたくし)はお姉様に微笑みかけて、口が開かれるのを待った。どんなお仕事なのでしょう。
「羽耶(うや)、こういうのはあんたが適任だ。雑談も交えて業務内容を説明するよ」
私(わたくし)が適任なお仕事。楽しみですね。
「最近さ、不届き者が山程いるじゃない。何かの流行りで発生してるらしい不届き者。法律は詳しくないけど礼拝所不敬罪で連れていかれる輩。信仰?元からそんなもんない連中だらけの地域だろってのは無しだ。で、連れてかれた連中は罰金と修繕費払って解放されるんだがその後がおかしくてね。どいつもこいつも『双子を見た!』って言うらしい。現代に相応しくない不気味な双子なんだってさ。『壊した、穢した、侮辱した。死んじゃうね。哀しいね。可哀想だね。』とか言ってひとしきり嘲って消える。馬鹿馬鹿しいと記憶の彼方に追いやるけど深夜に手鞠唄が聞こえてきて朝には静まる。それが一週間位続いてごらんよ。気が狂うだろ?そう、ここんところでニュースになってる自殺の一部はこれ。あとは凄まじい衝撃で圧死した不審死も相次いでるんだって。ろくでもない流行りの元凶は何だったかな。あたし、眼精疲労から解放される為にネット断ちしてるから分かんないや。レイイミナ、何か知ってる?」
私(わたくし)の愛しい素敵な伴侶に声が掛かる。貴女の優れたサーチ能力ならあっさりと終わってしまいそうですね。ですが、私(わたくし)が適任という事は双子が怪異でそれを祓えという事なのでしょう。自業自得で死に逝く愚者に慈悲など必要あるのでしょうか。私(わたくし)も可哀想で片付けてしまいたいものです。
「検索結果…ダナン河箋(かせん)がSNSで呼び掛けたチャレンジ。詳細…最も芸術的に尊厳破壊する。ご年配知識館にて…情報収集…」
「うん、最後の一文で怪しくなったわ。どうせ知識館で『最近の不謹慎チャレンジ教えて下さい』って書き込んでそんな事知ってどうするの系を無視して、マトモに返答した奴をベストアンサーにしたろ。そこでの情報なんか役に立たないから止めろって言ったじゃない」
あぁ、期待を裏切らない娘ですね。可愛い♥️大好きです。本当の情報はホラー系投稿者ダナー川箋(せんせん)の#礼拝所不敬罪なんて怖くない、というタグが元。SNSで呼び掛ける前に自身で企画趣旨を説明する動画を上げていた様です。その動画だけが一億再生という狂った数値を叩き出した様子。投稿自体は半年前。二ヶ月前からじわじわと伸びて一週間で爆発的に伸びた結果がこれだそうです。チャンネル登録者数は四万人の平均再生数は十万程度。私は興味がないので良し悪しは分かりません。例の動画を最後に音信不通。SNSの更新もその企画を発信したのが最後。ですが、一週間前にSNSが更新され、それが大いに拡散されたそうです。投稿されたものは録音された音声。森を駆けていると思われる雑音と手鞠唄が後ろで聞こえ、興奮した男が
「出会えた!出会えた!これで俺は大物になれる!再生したな?これは伝播する!祝福だぁ!アッハッハッハッ!」
という支離滅裂なもの。本来はネットの海に消えるであろうそれは前述した通りの再生数一億という動画の存在で話題になったそうです。彼のファンが検証動画を投稿しており、その投稿の後の企画動画のエンディング音声になかった筈の例の手鞠唄が流れているというもの。それは一日で百万再生されたそうです。そう、彼に関わると何故か注目を浴びる。俗っぽくいうと簡単にバズれる。結果、礼拝所不敬罪なんて怖くないのタグを付けた犯行現場の写真や動画が大量に投稿されたそうです。本題はここから。そのタグを付けた一部のユーザーが音信不通になったり、死亡したりする報告があり、範囲を調べるとこの辺りと隣接した一部の地域の人々が被害にあっているそうです。私の憶測も含めると注目を浴びる根源は彼ではなく手鞠唄が入ったものですね。地域がこの辺りと隣接した一部程度なのは怪異の行動範囲でしょう。
「凄いじゃん羽耶。流石は巫女。へー、ネットで祟りとか広める賢い怪異とかいるんだ。面白」
お姉様、面白がらないでください。被害が出ている上に怪異が怪異を呼び起こして百鬼夜行が起きたりしたら完全に対応出来なくなりますよ。あまり言いたくはないですが然る専門機関に丸投げをオススメします。私(わたくし)達は依頼を受けた方のみ対処しましょう。
「そんなにヤバイ?」
はい、人々の軽々しい好奇心と浅ましさに辟易しますね。失敬、怪異の人間に対する理解度が既に脅威。そういう判断の上の発言です。
「はーん。双子って良いよね」
今はまだそういった情報は出回っていませんが双子という情報。それに美少女という情報を怪異が開示して、投稿すればそういう俗っぽい癖を満たす為に行動を起こす方が出てきますよ。
「え?美少女なの?」
美少年でも良いでしょう。興味さえ引ければ何でも良いのです。お姉様も食い付かないでください。早く対処しましょう。ややこしくなる前に。
「はいよ。依頼主は電話したのが精一杯だったようでね。心労が祟って寝込んじまった様だよ」
それはそれはお可哀想に。仕業は怪異でも呼び起こしたのは人間。その方を葬りませんこと?という心の声は控えておきましょうね。ふふふっ。そもそも音信不通なので探し出さないと始末出来ませんが。
「サツ人…よく…ない」
愛しのレイイミナ。そういわれても私のリボルバーが撃って欲しいと問い掛けてくるんですよ。下品な事を言いますが硝煙の香りで気持ちよくなりたいものなんです。
「行くんじゃないの?早くって急かしたのは羽耶でしょ。レイイミナも行くよ」
「了解…マスター」
軽く流されてしまいました。構いませんけれどね。私は支度を整えて二人に付いていきました。
―
「壊れてるね」
「崩壊…」
木屑となっている祠だったもの。私(わたくし)は欠片を手にとって魔の痕跡を感じ取ろうとする。それよりも手っ取り早く解決出来そうですね。強い魔の気配。お姉様やレイイミナは気付いていない。私はリボルバーを取り出し、発砲する。
「何してる…ウヤ」
レイイミナ、お姉様。魔です。
「そういわれても何も出来ないよ。あたしらの普段の相手は人間だし。何?札でもくれるの?」
えぇ、此方をどうぞ。札の束を取り出してレイイミナの両手に握られた短刀とお姉様の拳に貼り付ける。
「札…消えた」
そういう仕様ですよ。融合するんです。お姉様は拳なのでそうでないと邪魔でしょうから。ちなみに融合なので私(わたくし)の力は全身に行き渡りますよ。攻撃は拳でなくても大丈夫です。
「怪異しばけるなんて面白そ。どこにいる?」
私(わたくし)は目を瞑り、神経を研ぎ澄ました。お姉様の後ろです!
「OK!オラァ!」
回し蹴りを食らわせる。攻撃で怯んで消えましたが姿は子供だと認識しました。となるとレイイミナ!横です!
「了解…!」
空を切った感覚でしょうが斬れていますよ。流石、戦闘はずば抜けている愛しのレイイミナ。うっとりしちゃいます。しかし、レイイミナとお姉様の攻撃が通ったのは確認しましたが私(わたくし)の弾は当たったのでしょうか?お姉様に仕掛けた怪異の動きがほんのり遅かったのでそちらが手負いでしょうか。レイイミナに仕掛けたのが片割れですね。考え込んでいると鬼の形相をした子供が二人。件の双子が出てきた。彼岸花の柄の黒の着物。おかっぱで黒髪。分かりやすいですね。
「私達攻撃した」「許せない」
「呪ってやる」「祟る」
「でも巫女いる」「変な武器の巫女」
「卑怯だ」「卑怯だ」
「「ね!」」
私の愛銃を変な武器呼ばわりとは許しがたいのでさっさと消して差し上げましょう。人間というのはエゴの塊なんですよ。自分勝手なんです。
「うすーく見えるね。声も何となく聞こえるけど片方男の子じゃない?」
お姉様。そういうどうでもいい事に食い付かないでください。怪異の姿形など偶像にしか過ぎません。関心を向けさせたり、畏れを抱かせる為の手段ですよ。
「排除…」
良いですよ。素敵ですよレイイミナ。片付けましょう。
「他の神」「怪異」
「それを片付けて欲しいだけ」「欲しいだけ」
「祠なんて後から来た他所の奴のもの」「社も邪魔」
「「それだけなのに」」
知った事ではありませんね。害なすなら…おっと、一つ聞きましょうか。
「お二人様、最初に社を壊した人間はどこですか?」
双子は顔を見合わせてヒソヒソと話し合う。
「御神木に閉じ込めた」「使うから生かした」
「私達の御神木」「祠なんかより偉い」
「「凄いの!」」
そうですか。元凶の人間を引き渡してくだされば
私(わたくし)達は害なしません。そちらがその気ならば何度でも対峙しますがどうします?
「お前邪悪」「人間どうする」
「巫女の癖に女好き」「女好きな女は変」
「「ねー!」」
私はリュックからサブマシンガンを二丁取り出して連射する。言ってはいけない事も分からない小童さんは滅しましょうね。恨めしげに此方を見て消えていく双子の怪異。片が付きました。万々歳ですね。御神木というワードも引き出せたのでよしとしましょう。
「おー怖。片が付いたならいいけどさ。依頼人にもそう伝える。で?御神木ってどこ?」
「検索…御神木…ワード引っ掛からず」
可愛い可愛いレイイミナ。少し歩きましょう。その場所の大きな木をスキャンすれば生体反応が見つかる筈です。
「了解…」
「嫌な予感するけどさ。まさかだよね。ま、好きにして。あたし先に帰るわ。報告忘れないでねー」
はい、お姉様。お疲れ様です。えぇ、好きにさせていただきます。元よりそのつもりでしたので。お姉様を見送ってからレイイミナと獣道を進みました。魔の気配が強く残る場所にて佇んで、辺りを見渡しました。ここですね。スキャンしてください。
「スキャン開始…生体反応発見…ウヤ…凄い」
大した事ではありませんよ。可愛いレイイミナ。救出もお任せします。私(わたくし)は銃火器しか持っていないので。あ、スコップは持ってました。
「了解…」
レイイミナが華麗な短刀捌きで御神木に取り込まれていた男を救い出す。動画で見た顔。つまりは彼がダナー川箋。でも、そんな名前は覚えておく価値もありません。自然と忘却しましょう。貴方の存在は世間からも消えるでしょう。さようなら、愚かな元凶。眉間を一発で撃ち抜く。リボルバーから立ち上る煙を軽く吸うと全身が高揚で震える。たまらないです…♥️
「サツ人…」
天誅ですよ。いえ、介錯です。怪死するよりは何倍も慈悲深い行いです。それに、何でも屋は人だって殺める。今更ですよ。
「うん…」
さて、埋めますか。土地の良い栄養になってくださいね。汚れるのでレイイミナは先に帰ってて良いですよ。
「ううん…手伝う…伴侶…?だから」
突然の告白に固まってしまう。早く籍入れます?段階進めます?結婚式には白無垢とウェディングドレスどちらがいいですか?…はっ!気が付くと血痕共々片付けられ、穴を埋めているレイイミナがそこにいました。あらいけない。私も埋めますよ。
―
「報告良し、経過観察の結果は問題なし。お仕事完了。お疲れ様」
お姉様に労われる。普段の行いと私(わたくし)達の仕事が仕事なので深くは問われませんでした。
「マスター…お疲れ様…です」
「怪異問題がうちに来るとはね。他にもあの何でも屋とかいるじゃんか。ガチの祓いしてくれる娘がいる所。あ、羽耶の能力がないって訳じゃないよ。当たり前じゃないの」
あそこですか。あの人達と顔を合わせた事もありますが私(わたくし)達と同じく三人の事務所。一人一人が別の理由で苦手なんですよね。所長の男性は底が見えなくておぞましいですし、所員その一の青年はかなりの魔ですし。人じゃないですよあれは。口には出しませんが。所員その二の少女は名家の魔祓い。名家の出身でもお口が悪くて私(わたくし)の事をサイコレズ呼ばわりしてきたので苦手です。ですが、お姉様の言う通り彼らの方が得意そうな案件ですけれどね。深くは聞きませんし、依頼料を頂いているので文句は無しです。依頼主様のお心は分かりかねます。
「ウヤ…凄い…知れわたってる?」
褒めても何も出ませんよキュートなレイイミナ。
口付けでもしましょうか?
「キス?…なんで?」
伴侶同士のコミュニケーションですよ。
「ううん…遠慮する」
私(わたくし)はほんの少しだけ肩を落としましたかレイイミナがおっとりさんなのは理解していますので。お姉様は笑っていました。からかわないでください。私(わたくし)の愛は深く広いのです。
―
こうして怪異事件は幕を閉じました。独自に調べた話をしていきましょうか。まずは怪死について。自死も圧死も手鞠によるもの。手鞠唄で参らなかった人間に直接手を下す為の手段が重力と巨大化させた手鞠の重量による圧死だった訳です。私(わたくし)達が強過ぎたというのは過言かも知れませんが発動するのに時間が掛かる代物であったのは間違いありません。次に再生数の謎。これは単純。改竄されたものです。名前を忘却しましたが最初の犠牲者かつ元凶を捕まえた際に人間を誘き寄せる手段として行ったそうです。本当にネットに強い怪異だったのは驚きです。いえ、ネット住人の心理を理解していた怪異が正しいですね。あれらが消えたら何もかもが元通りでしたので。もう誰も口にしない飽きられた話になっていました。次に手鞠唄。幸運を呼び寄せる?そんな効果はありません。気を狂わせるだけです。プラシーボと前述の心理を理解していた怪異が巧みに使っていた手段です。唄は良くも悪くも心に残りますからね。謎は以上で解決しましたかね。また、現れる事もあるでしょう。神に等しい怪異なので。根本が強いんですよ。完全に消し去るのは難儀です。人間が敬いを忘れ、不敬を働けば復活が早くなります。祟られたくなかったら触らぬ神に祟りなしの精神ですよ。お忘れなく。それと祠や社等を壊す行為は礼拝所不敬罪以外の罪に問われるのでお気をつけあれ。