モブ田(仮)の見たプロチーム納占の話。どうもどうも、モブ田(仮)です。
第六人格っていうゲームが好きな全てに平均的な大学生の俺の最近のもっぱらの楽しみは、夜20時からのランクマの時間だ。
おっと、俺がやるわけじゃない。魑魅魍魎蠢く深淵であるランクマはグリフォンに一回到達した辺りでやめたのである。ぴーよぴよ。
と、それはさておき。
俺の最近の楽しみ、それはeスポーツのプロチーム、BLK戦隊のメンバーであるイライ・クラーク選手のランクマ配信である。
このイライ選手、暴言を吐かないことで有名で、どんなに仲間がミスしても全く怒らず、それどころか味方のミスをカバーして引き分けないし勝利まで導くすごい選手なのである。
前に四吊り必至の試合をフクロウ一羽で逆転して勝ちまで持っていった試合は伝説だ。あんときゃ泣いたね、俺は。
チームのメンタルの柱らしく、味方を鼓舞する声には実家のおふくろを思い出させる包容力がある。
あんな人が味方にいればそりゃあ頑張ろうって思えるよなあ。
おっと、そろそろ20時だ。
Tetetubuの画面には時間きっちりに始まった「ランクマ配信(フクロウの絵文字)」の映像が流れている。
『こんばんは、今日もランクマ頑張っていきましょう』
穏やかな声が耳に心地いい。これだよこれ、今日も頑張ってよかった。
「あ、占い師BANされたか……月の河公園で、あ、納棺師使うのね」
買ってきたコーラを飲みながら画面を見つめる俺は、あっという間にイライ選手のプレイに夢中になった。
最近オフラインパックで届いたらしい「ガット」の衣装を使ってファーストチェイス、からのタゲチェン、そして味方の納棺救助を決めたイライ選手は最後の最後にまたチェイスを引いた。
納棺師一人に試合をぐちゃぐちゃにさせられたハンターとしては死ぬほど悔しいだろう。
絶対に納棺師だけは椅子から帰ってもらうという意思が伺えた。
ハッチは川を挟んで向こうにある。
納棺師にもうスキルはない。フライホイールもさっき使った。
ハンターの執念とイライ選手のプレイのぶつかり合いだ。俺はコーラを飲むのも忘れて見入ってしまった。
結果は三吊り。ハッチ前まで粘ったイライ選手の納棺師をハンターは神出鬼没で仕留めた。
「はぁー、最高だった。って言うかまだこれで一戦目か」
『味方の救助がすごくうまかったし、引き継ぎも完璧だったね、対戦ありがとうございました』
対戦後にまたイライ選手のふんわりした優しい声が響く。落ち着く。戦ってる間はあんなに手に汗握る攻防を繰り広げるのに、このギャップよ。
これだからイライ選手のファンはやめられないのだ。
『あ、マッチした』
「さてさて、次はどこかな……っと」
マッチング画面が映って、その時だった。
『イライ、コーヒー入ったよ』
「……!?」
『あ、イソップくん』
ことり、とカップを置く音、それから涼やかな声。そして名前。
間違いなくBLKのイソップ・カール選手だ。
「え。え? もしかして一緒にいる!?」
コメント欄が一気に動く。
イソップ選手!?なんで!?と沸くコメント欄に俺も同意した。
今日はコラボでもなんでもない。イソップ選手とイライ選手はチームの中でも仲良しらしいが、家に行くほどの仲とは聞いていない。
『あ、ごめんなさい。今日は友人が来ていて』
『イライ、もう名前呼んだんだからバレてるよ』
『あ、そうか……。コーヒーありがとう。美味しい』
『うん。それよりマッチングしたんだからキャラピックしないと』
『そうだね、あ、占い師使える』
『このBANなら納棺師でもいいんじゃない?』
納棺師はイソップ選手の得意キャラだ。
使って見せて、と笑み混じりの声が聞こえる。お二方、距離近くない?
『イソップくんの前で納棺師? 緊張するなあ』
『そう言いながらピックしてくれたのは誰?』
『ふふ』
いやマジで距離近くない?
『次から僕も一緒に行くよ』
『やった。じゃあ、この試合も頑張らなきゃ』
画面の中ではスポーン選択が始まっている。
俺はフー、と天を仰ぐ。
コーラをぐびりと飲み、財布を取り出した。
その日、俺は人生初の赤スパチャってやつを飛ばした。
月の見える、いい夜だった。