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    mmmuutoo

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    家+五の五→伊
    な、五伊地です!短いですが。

    所詮は人間だもの。所詮は人間だもの。

     保健室のカーテンはなぜ白なのだろか。気持ちを落ち着ける青や和ませる効果のありそうなピンクでもいいのではないか。そんなどうでもいいことをべらべら喋ったあと、目隠し姿が特徴的な男はぱくりとまんじゅうを口に放り込んでソファにごろりと横になった。長い脚が盛大にはみ出している。家入は相手に聞こえるように溜め息を吐いた。
    「おい。ここは保健室なんだが」
    「医務室の方でごたついてるんなら来ないって」
     家入の仕事が込み合っている時は本格的な医療器具が揃った医務室にて処置や経過観察が行われるが、保健室と称されたここにいる時は比較的仕事が落ち着いている時である。確かに、術師の怪我やリハビリについての申請書類はあらかた仕上げて一息ついたところだったのだ。
    「お前の部屋に帰ればいいだろう」
    「寮の方に? そっち行くのは完全に退勤してからっていうサイクルなんだよね~」
     軽い口調で言うが、そのサイクルとやらに巻き込まれている家入はたまったものではない。机上に乗っている期限が迫っていない書類仕事を諦めて、煙草に火を付けた。
    「仮眠したかったら仮眠室に行け。私はこれを吸い終わったら仕事に戻るからな」
     そう言いつつも、家入はいつもよりもゆっくり、浅く煙を吸い込んだ。天上を眺めているだろう特級術師は、軽薄な口ぶりで話す。
    「僕ってさぁ、最強じゃん?」
    「あ? 周知のことだろう」
    「うん。名実共に」
     家入の傍らにはぬるくなったコーヒー。冷えていないだけで御の字のそれを飲み下して、年寄りの昔自慢に相槌を打つように適当に頷いた。真剣に取り合わないことが最適解であるようで、五条はそうなんだよねぇと語尾を伸ばす。昔のような剣はないが、のらりくらりとした中に鋭さを感じる物言いから、その性分は変わっていないのだなと感じさせられる。春先の少しひんやりとした風が白いカーテンを押した。
    「でもさぁ、僕も人間なんだなって思って」
    「ああ、そうだな」
     きっとこれは「周知の事実」ではないだろう。特級術師であり、先生であり、現代最強の五条家当主は、人間というよりは「神様」だの「化け物」だのそういった類のカテゴライズの方が周囲にはきっとしっくり来るのではないかと思う。どんなに親しくしていても、どんなに付き合いが長くとも、どんなに尊敬していても、生き物としての格が違うのだとこの業界にいるからこそ思い知らされる。その「化け物」が「人間」を好意的に見ているからこそ仲良くお喋りなぞできるのだ。この関係はあまりにも「対等」ではなく、それを知った上で「対等」であるかのように会話を進行させるこの「五条悟」という男は腹が立つほど横暴だが、呆れるほどの優しさを持っているのだなとも家入はしみじみ思う。
    「伊地知がさぁ、良い人ができたっぽいんだよね」
    「良かったじゃないか」
     口ぶりではそう言う家入だが、五条にとってはなにも「良かった」ではないのだろう。声が不機嫌を醸し出している。五条は優秀な者、将来有望な者を特別厳しくも雑に扱うところがあるが、伊地知への横暴さは術師に対するものとは違っていた。私生活にまで及ぶ五条の要求は明らかに度を越している。期待も甘えも苛立ちも、分かりやすくぶつけているなという感想を持っていた家入であるが。
    「あいつってさぁ、生涯一人でいる覚悟持ってると思ってたんだけどね。こんな職で死ぬ可能性が高いのに恋人なんか、って」
    「それ本人から聞いたのか?」
    「ううん」
     偏見が過ぎる。とツッコミたいところであったが、家入の中の伊地知もそういう認識だったため、そのイメージは分かるが、とことわった上で五条の主訴はどこかと探る。五条はそれを拾う。
    「でも恋人なんて作っちゃうくらいなら僕が奪っちゃおうかなーって」
    「は?」
     青天の霹靂。家入の頭の中に様々な思い出が浮かぶ。禪院の小学生を高値で買い取って伊地知と家族ごっこをしていたり、初めてのドライブの相手になってやると伊地知を車に押し込めていたり、いちいち髪型や服装の好みを伊地知にしつこく聞いていたり。そんな五条悟の快活な笑顔。やけに絡むなと思っていたが、七海が去ってしまい唯一の後輩になった彼なのだから、特別可愛いのだろうと思っていた。家入にとってもそうだったのだから。しかし、五条悟はあの男にそれほどまでに執着していたというのか。煙草はいつの間にか灰皿の中で死に絶えていた。
     家入は額を抑えて言う。
    「下心も恋心もないただの執着で伊地知を不幸にするな」
    「っはは!」
     五条は愉快気に笑った。
    「下心も恋心もしっかりあるんだよね。僕もただの人間だからさ」
    「……余計に不幸だな」
     自分のおもちゃを他に取られそうになった子どものような癇癪かと思っていたが、しっかりと欲を孕んだ感情なのだと「人間」である「化け物」は笑う。今まで自分は弁えていただけなのだと。線を誤らぬようにしていただけなのだと。しかし、と美しい唇で呟く。
    「恋人を作る気がある時点で僕と同じ土俵に立っちゃったってことなんだよね」
    「恐ろしいことを言うな。伊地知が泣くぞ」
    「泣かせるのが僕なんだったら全然いいよ」
     ソファでだらしなくしているやけに長い脚がぷらりと揺れた。口笛でも吹きそうな機嫌で五条が言う。腹の底ではその「恋人」とやらに良くない感情を燃やしているだろうに。
    「揉み消さないといけなくなるようなことはするなよ」
     家入が苦々しく言う。そんな事態になれば、立場上必ず伊地知の耳にも入るだろう。
    「そんなヘマしないよ」
     完璧にやるさ。五条は軽々と言うが、完璧という響きに不穏さが滲み出る。基本的に人間に対しては非暴力主義の男だが、捻り潰して人間を物理的に塵にできる力を持つ者が言うとその意図がなくともそう聞こえてしまう。家入のため息が盛大に漏れ出た。
    「はー……伊地知が退職しないことを祈る」
    「そうなった時は僕のお嫁さんになってるかもねっ」
    「伊地知ー逃げろー」
    「ははは!」
     本人の素知らぬところで、事が大きく動き出したのであった。


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