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    mmmuutoo

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    五伊地。はらほんを書いてみたくて書きました。伊マネはたっくさんいじられていると良いよ。五伊地っつっても五伊地にもなっていません。未満。

    私はただの会社員です……‼「悟、撮るよ」
    「へーへー」
     カシャ、と電子音。祓ったれ本舗、絶賛売り出し中の若手漫才師が二人、顔を寄せてロケ先で食レポをしたばかりのドリンクと共に写真を撮っていた。世間での評価は漫才の面白さよりもビジュアルが勝ってしまい、塩顔イケメンと国宝級美顔。夏油のアカウントには時折二人が仲良さげにしている写真を上がるものだから、各SNSアカウントのフォロワー数は急上昇中である。今も、夏油が写真をアップロードした途端、すぐに溢れるコメントとハートのスタンプ。
     今日は町ブラ食レポ系の番組撮りである。二人は高い背をかがめ、次の店への移動のために小さなロケバスに乗り込んだ。
     夏油はスマートフォンに指を滑らせる。先ほどアップロードした記事への反応のチェックである。
    「すごいね。いつでも張り付いてる勢がいるわけだ。またコメントの一番この子だよ」
    「しょーもな。んなもんよりも漫才見てほしいんだけど」
    「ファンは幅広く、分母を増やしていく時期だよって社長にも言われてるだろ」
    「ゲイ売りしてもおもしろくないって」
     夏油が個人的に運用しているSNSアカウント。ある日、五条とのツーショットをアップしたところ、普段の倍のアクセスがあったのだ。そこにあった声は、イケメン×イケメンに悶える、女性と思しきアカウントからのコメントの数々。尋常ではない興奮が滲んでいた。
    夏油がしばらくインターネットの海を潜ってみると夏五、五夏なる言葉まで発見し、少し言葉を変えてエゴサをすれば、それが男性同士の色恋沙汰を妄想して楽しむ者達の使う言葉であることを知ったのだ。それ以降、夏油は意図的に五条と共に写真を撮ったり、フレームの端の方に五条が映り込むようにして祓本知名度の向上を図っている。
     夏油のやり方に賛同しかねるという顔の五条だが、夏油は愉快気だ。
    「ゲイ売りって言うけど、別に交際宣言してるわけでもなし、ただの仲良し営業だよ。勝手に妄想して勝手に盛り上がっててもらえたらファン層が増えるでしょ。それに私や悟単体でのファンもいるんだから悟もSNS運用をもうちょっと頑張ってほしいんだけど」
    「僕は別にそっち方面で売れなくてもいいんだっての」
    「お話し中すみません。夏油さん、五条さん、今お時間大丈夫ですか?」
     はっきりとしているが穏やかな色の声。暑い日だというのに黒いスーツを着込んでいるマネージャー、伊地知がタブレットの画面を見せた。
    「ああ、この前言ってたやつね。日取りが微妙なやつ」
     夏油が日程を確認しつつ、今後の予定と漫才のネタの完成度、構成についてぶつぶつと口の中で独り言を始める。ネタ作りとスケジュールの兼ね合いに夏油が頭を悩ましているこの時間、誰も夏油に話しかけてはいけないというのが暗黙の了解であり、伊地知はなにも言わずに夏油をじっと見つめていた。
    ずずず、と甘ったるいドリンクを飲み干した五条は、伊地知のスーツを見て眉根を寄せる。
    「ねえ、暑いでしょその格好」
     現在お盆前。夏も真っ盛りで太陽光が皮膚に突き刺さる。そんな中で黒のスーツで上下を固めているなど正気の沙汰ではない。よく見ずとも、こめかみや額には汗がびっしょりと滲んでいる。見ているだけで暑い、とうだるような視線を受けた伊地知は困ったように笑う。
    「そうですね。暑いですが私はマネージャーですので……」
    「世間はクールビズでしょうが。ネクタイとジャケットくらい脱ぎなよ。暑っ苦しい」
    「お見苦しくてすみません、ですが……」
    「なんだよ」
    「私、汗っかきなので脱ぐともっとお見苦しいことになってしまってて……」
    「は?」
     なに言ってんだ、と思ったのは一瞬で、五条の聡明なる頭の中にはぐっしょりと濡れて肌に張り付くワイシャツを身につけた伊地知の姿が再生された。透ける肌の色、あらわになる身体の凹凸。ついでになぜか頬を赤らめてはふはふと息が上がってうるりとした目をうっとりと細めている伊地知。謎のお色気ムード。どう考えても気持ち悪い……はずなのに、五条が抱いた感情はそれとはマイナスのものではなかった。
    あまりに破廉恥。あまりに卑猥。あまりに淫靡。
    そんな言葉が脳内に現れては走り去っていく。
    「……」
    「五条さん?」
    「脱げ」
    「え、五条さん⁈」
    「なんか脳内がおかしくなってるから一時的なバグなのか本当にそうなのかを確かめたい」
    「どういうことですか⁈ え、脱がさないで‼」
    「うるさいよ伊地知‼ 集中させてくれ」
    「夏油さんまでひどい……‼ 私のせい⁈」
    「あーもう煩いな」
     苛立ちマックスの顔で伊地知のジャケットを引っ張っている五条、という図。運転手のスタッフに険悪な声を聞かせられない。なにより、怒鳴るよりも有用だろうと夏油は手元のスマートフォンでその様子をパシャリと撮影。
    #祓本 #敏腕マネージャー #悟ご立腹 #セクハラ?パワハラ? #おまわりさんこいつです
    など、ハッシュタグをてんこ盛りにしてその写真を投稿したのであった。



    「はーい、次はお便りコーナーなんだけどぉ、特別ゲストでーす!」
    「は、祓ったれ本舗、マネージャーの伊地知、と申します……」
    「声ちっせー」
    「悟、優しく言いなって。そんなんだからパワハラだって言われるんだよ」
    「うう……なぜ私がラジオに……」
     モニターにはどよめき、待ってましたの歓声を示すコメントやスタンプが下から上へと流れていく。
     伊地知と五条の写真が上がった食レポ取材の日、祓ったれ本舗のマネージャーはマネージャーの域を超えていじられているのでは? 不憫w でもかわいそ可愛いw などのコメントが多々ついたのだ。拡散力も凄まじく、一時「祓本マネージャー」がホットワードにまでなっていた。
     そこに目を付けたのは社長と夏油である。その次の日、伊地知と五条の写真を意図的に上げると、今まで引っかからなかった客層からのコメントや反応があったのだ。このチャンスをみすみす逃す夏油ではない。
    そして、五日後の今日がラジオの生放送日。伊地知の知名度は0から120まで上がってしまい、テレビ出演は無理でも曜日担当のラジオで紹介してほしいとSNS上でおおいに盛り上がっていた。
    「私は芸能人ではありません! 無理です……!」
    ラジオ出演の話を受けた伊地知は大きく手を振って断ったのだが、祓ったれ本舗の今後の活躍に繋がりそうだけど、伊地知が嫌なら仕方がないねと夏油に困ったように笑われては、嫌です。を突き通すことができなかった。収録ブースの席に座ってしまっている自分に、がくりと細い肩をおとしている。
    夏油は胡散臭いとよく言われる笑顔でもって、印刷された文字を読み上げる。
    「さて、お便り読むよ。カラコンは青一択さん、こんばんは。『はろはろ~この前から傑がアップしてる眼鏡のマネージャーさんが気になります。何歳ですか? 既婚者ですか? 二人との関係は?』だって」
    「伊地知、答えろよ」
    「ひぇ、ええっと……二十七歳で、独身です。同じ大学に通ってたらしいんですが、私はお二人のことを知らなくて……。就職先の芸能事務所で事務をしていたらなぜかマネージャーになってしまって……」
    「私と悟、大学では結構有名人だったんだけどね。でも悟は伊地知のこと知ってたんだよね」
    「ん。まあ、知ってた」
     いつもは快活なトークを売りにしている五条だが、いまいち歯切れが悪い。それもそのはず、今日の伊地知はスーツではないのだ。ラジオの放送が深夜であることと、先日暑苦しいと言われたことを受けて、オーバーサイズのTシャツにゆるいデニムといった出で立ち。楽屋入りで顔を合わせた時は、五条は驚きのあまり「お前はどういう格好してんだよ‼」と頭をはたいてしまったほどだ。当然、伊地知は困惑していた。到って普通の格好なのに……と頭部を押さえていた。
     五条の声の様子がいつもと違う、と耳ざといリスナーは心配のコメントを送っている。
    「みんな悟が心配だってさ。でもまあ私も心配かなー。最近やたら伊地知と絡むもんね」
     需要を分かっていてそんなことを言うのだから、五夏だの夏五だのを愛好している女性達の叫びのコメントが入る。しかし、夏油とてその層にばかりサービスをする気はないのだ。伊地知というコンテンツで取り入れた層をどうにか固定客にしたい。そこから漫才までつなげたい。そういう思惑があるのだから。今日の主役である伊地知に視線をやる。
    「マネージャー業、いつも私たちの気持ちと社長の方針との間に板挟みになりながら頑張ってくれてるよね」
    「板挟みって分かってるならもうちょっと優しくですね……」
    「心外だね。私って伊地知に従順じゃない? ほら、お手って言って」
    「お、お手?」
    「わん!」
    「いだだだ! それ、頭ですよ……!」
     素直な伊地知と、それをからかうような夏油とのやりとりが続き、その後、お便り二つ。それぞれの解答も終わった伊地知はコーナーの締めとともに退出の流れであった。
    「では伊地知、最後に一言!」
    「せっかくの祓ったれ本舗のラジオに素人の私が出てしまって大変失礼しました。貴重な機会をありがとうございます。これからも祓ったれ本舗をよろしくお願いします」
    「なんの面白味もないマネージャーの鏡過ぎるコメントだね。じゃ、伊地知は向こうのブースで私たちのお仕事チェックよろしく~」
    「ありがとうございました。失礼しま、す……? 五条、さん?」
     立ち上がろうとした伊地知の腕が、くん、と引かれた。ぽかんとした顔の伊地知が、黒縁眼鏡越しに五条を見る。普段スーツばかり着ていて、仕事中には一度も出したことのない伊地知の腕を五条が掴んでいたのだ。
    「あの、五条さん、離して……」
     公共の電波に乗ってしまうからと伊地知は小さな声で言うのだが、こそこそとした声はきちんと収音されて、正しく全国のリスナーに届けられている。音でしか分からないラジオでこれは、放送事故である。夏油は競馬の実況者がごとく大声を張り上げた。
    「おおーーっとぉ! 帰ろうとした伊地知マネージャーの腕‼ 五条悟! 掴んで離そうとしません‼ なんだその顔は⁈ 怒っているのか照れているのか、長年友人やってきた私でも全く分かりません‼」
     実況を聞いて状況を飲み込んだリスナーから、怒涛のコメントが流れ来る。しかし、五条はそんなことでは動じないのだ。
    「もうちょい居てよ」
    「だ、だめですよ……!」
    「だって傑とばっか喋ってたじゃん」
    「ええ……?」
    「はーい! 一旦CM入ろうか‼」
     伊地知の目には、拗ねた顔をした五条が映っている。これは絶対に嫌だという時の顔である。こうなったら、彼は引いてはくれないのだ。きっとそれは夏油も分かってるだろう。プロデューサーの方に視線をやると、でかでかと「〇」のジェスチャーが返ってきた。イヤモニからはプロデューサーの呆れ声が聞こえてくる。
    「CM明けまで10秒。最後まで三人でいっちゃっていいよ。3、2、1……」
     好きにして良いという許可にも聞こえるが、実際のところは最後までお前らが責任を取れよという旨の指示であった。
     そんなプレッシャーなど微塵も感じさせず、CM明けの第一声は華麗にきまった。
    「はい、えらーい方からのオッケーが出たので、三人で続行でーす!」
     やけっぱちになった夏油、三人で続行となったことで調子を上げる五条、困惑しきりの伊地知。コメント数、リスナー数、接続数はうなぎのぼりで、この日のラジオは伝説の回となったのであった。
     五条と伊地知、そして夏油の三人。ただの仲良し営業なのか、それとも本当にナニかがあるのか、それは当人達もまだ理解ができていないのが本当のところなのである。



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    mmmuutoo

    DOODLE五伊地(♀)です。五→伊♀の図。片思いが好きすぎる。自分が一番厄介なんだなって気付く五。
    俺の、僕の、お前 弱くて、呪力量も少なくて、とびぬけて器用でもなくて、一般社会に居た方が確実に幸せだったろうなと思う女子生徒。それが伊地知だった。同世代の女子なんて歌姫か硝子しか知らないからとりあえず同じように扱ってたけど、あまりにも雑すぎるって七海や傑によく言われたっけか。高専の教壇に立つような年齢になったからこそやっと分かる。確かにそうだったって。呪霊を祓う知識は持っているけど、伊地知は頭のネジが飛んでない。呪力の使い方なんて知らないでもやっていけそうな、かなりまともな分類の人間なのだから、それ相応の扱いをしてやらなければいけなかったんだって。
     修行だって言って低級呪霊の巣窟に放り込んだり、傑や硝子としてたように七海と一緒に同じ部屋をとって旅行してみたり、寮室で一晩中ゲームしてみたり。そういうの、あいつは苦手だったのかも、とか今となっては思う。でも僕の知ってるモデルケースは、あいつらと過ごしたそれしかなかった。灰原も傑もいなくなって、硝子は自分の進む道を決めてて、七海は死んだ目で日々を消化してた。
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