構いたがりの世話焼きナルシストルーとジェントルーこれはまだ菓彩あまねがジェントルーとしてブンドル団にいた頃のお話。
SNSを駆使して次のターゲットを探すジェントルーの背後に何者かの気配がする。気づいて振り返れば、案の定というかいつものことというか、ナルシストルーの姿があった。
「あなたはどうしてこういつもいつも私の背後に立つ?」
「え~? 無防備な君が悪いんでしょ」
不愉快そうに眉を潜めるジェントルーだが、ナルシストルーは全くもって悪いとは思っていないような態度だ。
言っても埒があかない。
ジェントルーは、不本意ながらもナルシストルーの存在を無視して目ぼしい情報を探ることに注力する。いつもならもう彼はジェントルーから身を離しているところだが、今日は一向にそうならない。
不思議に思いつつそのまま情報検索を進めれば、良さそうな店がいくつか見つかった。どれにしよう、ゴーダッツ様がお好きなものはと思考を巡らせるジェントルーの背後から手が伸びた。
「こっちの方がいいんじゃないのか?」
無遠慮なナルシストルーの手がジェントルーの情報端末に触れた。かと思いきや、何故かジェントルーが必要ないと読み飛ばした情報を画面に出してくる。
「いや、今のトレンドはこちらの方だ」
「オレさまはこっちがいい」
ジェントルーが画面の表示位置をスライドして戻すと、ナルシストルーも同じくスライドさせてさっきの画面にする。
いつもはこんなことしないのにと思いながら、ジェントルーは顔を画面に向けたまま彼に尋ねる。
「あなたはこの料理が好きなのか?」
「は? 好きなわけがない」
「……」
思わず軽くため息をついてしまう。
「それなら何故こちらがいいと……」
「別に? オレさまの気分」
「……」
真面目に取り合おうとしたのが間違いだったようだ。ジェントルーはもうナルシストルーは完全に無視して情報収集しようとする。
するのだが、その度にナルシストルーがちょっかいを出してくる。無視しようにもしきれない。
「あぁもう、邪魔をしないでくれ! 折角候補を絞ったのだから!」
「そんなに精査する必要ってある?」
ブンドル団としてはあるまじき発言に、ジェントルーは少し怒りを覚えた。ナルシストルーはさっきから助けになるどころか邪魔ばかりで有益な情報だって何も喋らない。任務を何だと思っているのか。
「あるに決まっているだろう!」
「ま、オレさまにはそんなの必要ないが、ジェントルー君ではオレさまのように華麗にはいかないからな。無理もない」
まるでジェントルーをわざと怒らせたいような言いぐさだが、ナルシストルーは本心から言っているようだった。ジェントルーは怒りより呆れの気持ちが勝って溜め息をつく。
「とにかく、これは必要なことなんだ。邪魔しないでくれ」
「はいはい」
わかっているのかいないのか、軽々しいナルシストルーの返事にジェントルーは一瞬眉尻を上げたがすぐに意識を切り換える。
ナルシストルーはもう邪魔をしないのか少しの間黙っていたが、不意に頬をつんと突かれてジェントルーの身体はびくりと跳ねた。
「何だ!? 邪魔をしないでくれと……」
「今日はもうおしまいだ。また明日の活躍を期待しているよ、ジェントルー君」
芝居がかったナルシストルーの口調にジェントルーははっとして時間を確認する。気がつけばかなりの時が経っていたらしい。だが、いつも帰るのとそれほど差がない時間だ。
「もしかして帰りの時間を気にしていてくれたのか?」
少し驚きつつジェントルーがナルシストルーに問うが、彼は軽く肩を竦めるだけでまともな返事はない。
ジェントルーがその反応に少し不満そうな顔をして見せればやれやれと言う風にナルシストルーが口を開いた。
「無理して君に倒れられては困るだけさ。君の家族に怪しまれるのも面倒だし」
「私は無理など……。家族のことは、確かにそうだが」
まだ何かゴニョゴニョと口のなかで呟いているジェントルーの手をごく自然に掴むと、ナルシストルーはそのまま何処かへ歩き出す。連られて歩いていたジェントルーが気づけば、そこはもうアジトの出口だった。
「さあ、今日はもうオレさまの顔を見れなくて寂しいだろうが早く行った方がいい。悪いやつに拐われないうちに」
そう言われたジェントルーは何か言いたげにナルシストルーを見つめたが、言葉を飲み込んで代わりに軽く頭を下げた。
「送ってくれてありがとう。感謝する」
そうしてふわりと微笑んで、ジェントルーの姿はその空間から消えた。後に残ったのはナルシストルーの姿だけ。
少しの間ジェントルーの消えた方を見つめていた彼は、やがて踵を返すのだった。